蒼の瞳、紅の瞳
■ 38.生まれてきてくれてありがとう

朝日が昇ろうかという時、中から小さな声が聞こえてきた。
ふぎゃあ、ふぎゃあ、と。
生まれた、のか?
思わず爺様と顔を見合わせる。


そして、それまで閉じられていた襖が開け放たれた。
「すぐに湯を!」
顔を出した睦月はそう叫んだ。
ほどなくしてたっぷりの湯が運ばれてくる。


「睦月。咲夜は?子は?」
部屋の中に戻ろうとする睦月を呼びとめて問うた。
「どちらもご無事ですよ。すぐに会わせますからもう少し待っていてください。」
「・・・そうか。無事か。」
それを聞いた白哉は漸く肩の力を抜いたのだった。


「ご当主。どうぞお入りください。銀嶺様も。」
それからすぐに白哉と銀嶺は部屋に通された。
部屋にこもる熱気が出産の凄絶さを物語っていた。
白哉は真っ直ぐに咲夜の元へと向かう。


「咲夜。」
『白哉。お爺様も。』
「まだ、横になって居ろ。」
起き上がろうとした咲夜を白哉が制す。


「咲夜さん、貴女の子ですよ。抱いてあげてください。」
そういって卯ノ花が赤子を咲夜の胸元に置いた。
今は、眠っているらしい。
「元気な男の子です。」


『・・・そうか。私と白哉の子か。よく、来てくれたな。生まれてきてくれて、ありがとう。』
咲夜はそう言って赤子を抱きしめた。
その姿があまりにも神々しくて、白哉と銀嶺は思わず見とれてしまった。


『ふふふ。白哉、手を。』
咲夜に促されて、白哉は手を差し出した。
その手を掴んで、赤子の元へ持っていく。
『これが、君の父上だ。私の愛しい人だ。君に、一番に紹介したかった。』
そういう咲夜の目には涙が浮かんでいる。


「ありがとう、咲夜。生んでくれて、生まれてきてくれて、ありがとう。」
言いながら、白哉は泣きそうになった。
そして、白哉の言葉に咲夜の目からは涙が零れる。


『白哉、ありがとう。この子を、幸せにしよう。この子とともに幸せになろう。』
「あぁ。」
白哉はそう言って幸せそうに微笑んだ。
咲夜もまた微笑む。
それを銀嶺、卯ノ花、睦月は安心したように眺めていたのだった。
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