蒼の瞳、紅の瞳
■ 37.生まれる時

さらに数か月後。
咲夜は臨月に入っていた。
臨月になると、白哉は咲夜に付きっ切りになった。
仕事中もずっと咲夜を傍に置いているのである。
虚退治の任務も他隊へと回して書類整理に徹しているくらいだ。
そして休憩時間になると、咲夜を抱きしめて、優しくその膨らんだお腹に手を当てるのだ。


『ふふ。くすぐったいぞ。』
「今、動いたな。」
『あぁ。君に返事をしているみたいだ。』
「そうか。」


『・・・私は時々、今こうしていることが夢なのではないかと思う。』
「何故だ?」
咲夜の言葉に白哉は腕に力を入れた。
『幸せすぎてな。君が隣に居ることも、君との子供が私のお腹の中に居ることも、浮竹や京楽やルキアやイヅル達が、私の近くに居てくれることも。』


「夢ではないぞ。私は、ここに居る。こうやって咲夜を抱きしめている私は本物だ。」
『・・・うん。そうだな。ちゃんと温かい。白哉、愛しているよ。』
「私も咲夜を愛している。」
『うん。ありがとう、白哉。』
咲夜はそう言って瞼を閉じて眠ってしまった。
「・・・礼を言うのは私の方だ。」
そんな咲夜を愛しげに見つめながら、白哉はそう呟いたのだった。


すとん、と何かが落ちてきたような気がした。
あぁ、生まれるのか。
やっと、君に会えるのか。
おいで。


君を待っていたよ。
君を待っている人たちがたくさん居るよ。
安心して生まれてきていいよ。
さぁ、早く出ておいで。


『っ痛。』
痛みで目が覚めた。
いつの間にか邸まで運ばれていたらしい。
陣痛が来た、のか?
先ほどの感覚はただの夢ではなかったらしい。


『びゃく、や。』
ともに眠っていた白哉の着物を掴む。
「・・・咲夜?」
『はやく、医者を。・・・生まれるぞ。たぶん。』
その言葉に白哉は目を見開いて飛び起きた。


「睦月と卯ノ花隊長を呼べ!!」
まだ夜中であるにも関わらず、白哉の声に何処からともなく家人の返事が聞こえてくる。
「咲夜、大丈夫か?何かして欲しいことは?」
白哉は苦しげに呻いている咲夜に声を掛ける。


『白哉、手を・・・。』
咲夜はそう言って手を伸ばす。
白哉はその手を包み込んだ。
そして、彼女の腹にも手を当てた。


「ご当主!!」
「咲夜さん!!」
白哉が暫くそうしていると、睦月と卯ノ花が駆け込んできた。
「朽木隊長は、外に出ていてください。」
「咲夜・・・。」
卯ノ花の言葉に白哉は心配そうに咲夜に目を向けた。


『白哉、大丈、夫だ。』
そう言って白哉の手を強く握ってからその手を放した。
「・・・頼む。」
「はい。湯の用意をさせておいてください。それから清潔な布の準備も。」
「解った。」


それから数刻。
白哉にとっては長い、長い時間だった。
今自分にできることは何もないのだと思い知らされる。
時折咲夜の呻くような声と、卯ノ花や睦月の声が漏れてくる。


落ち着かぬ。
咲夜、無事でいてくれ。
無事に生まれてくれ。
白哉はそう願うしかなかった。


「白哉。」
振り向くとじい様がいた。
「そう心配するな。大丈夫だ。と言っても、儂も落ち着かなんだが。」
そういって、困ったように微笑む。
だが、それでも白哉の心に落ち着きが戻ってくる。


大丈夫だ。
咲夜は大丈夫だと言っていたではないか。
私が信じなくてどうするのだ。
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