蒼の瞳、紅の瞳
■ 36.早くおいで

「ご当主は本当に苦労しているよなぁ。」
睦月がしみじみと言った。
「そうだな。兄様はいつも咲夜姉さまを心配しておられる。」
「でも、嬉々としてやっているよな。頭を抱えつつも楽しそうだ。」
「あぁ。姉さまがそばに居るのが嬉しいのだろう。」


『私だって白哉の心配はしているんだぞ!』
「そうなのか?漣は何の心配もしていないように見えるが。」
『そんな訳ないだろう。あの朽木白哉が夫なんだぞ?地位も財力も権力も実力もある上に、あの容姿だぞ?白哉こそ引く手あまただ。未だに白哉に女を近づけさせようという貴族もあるくらいだ。』


「まだそんな命知らずな奴がいるのか。」
『居る。』
咲夜は不満げだ。
「でも兄様は、全く相手にしておられぬではありませんか。」
『それは解っているんだ。でも、それでも、私だって心配になることぐらいあるのだぞ。』


「・・・結局ご当主が大好きっていう話だな。」
睦月が呆れたように言った。
『いいじゃないか・・・。』
咲夜は拗ねたように言った。


「ははは。漣のそんな顔が見られるとはな。白哉はすごいな。」
「えぇ。兄様はいつも姉さまを支えておられる。」
『そうだな。私はいつも白哉に支えられている。白哉だけじゃない。浮竹も京楽も、ルキアも睦月も。その他の大勢にも支えられている。大切なものに、手が届くというのは幸せなことだな。』


「ははは。お前が手を伸ばせば、必ず誰かが手を伸ばしてくれるんだ。もう一人でどこかに行ったりするなよ?」
「そうですね。今勝手にどこかへ行かれたら俺の命が危険に晒されるんだからな。」
「全く、睦月は。素直に心配していると言えばいいのだ。」
ルキアが呆れた顔を睦月に向ける。


「五月蝿いぞ。ルキアは最近生意気だ。」
「なんだと!?睦月には言われたくないぞ!」
「こらこら、二人とも、やめないか。」


『・・・ふふふ。』
咲夜は思わず笑ってしまった。
浮竹もルキアも睦月も不思議そうに咲夜を見る。
でも、笑いが止まらなかった。
言葉では言い表せない感情が込み上げてくるのである。


嬉しいような、恥ずかしいような、ポカポカして温かい何か。
このお腹の中に居る子もこんな風に思えることが出来たらいい。
「姉さま?」


ルキアが顔を覗き込んでくる。
咲夜はその頭を撫でた。
『ふふ。私は何処にもいかないよ。私はもう一人ではないのだ。私の居場所はここにある。』


早く、生まれておいで。
咲夜はお腹に手を当てた。
辛いことも、苦しいこともあるけれど、こんなに温かい人たちがたくさん居るのだ。
君に、会わせてあげたい。
君に、会ってほしい。


こんなに素敵な人たちが私の味方なのだ。
そしてそれは、君の味方なのだ。
でも生まれてきたら、最初に挨拶をするのは私だ。
それから、次に会うのは白哉だな。
君の父親だ。


強くて、優しくて、ちょっと過保護で、時折甘えん坊な、私の愛しい人。
君に、最初に紹介するよ。
愛しい我が子。
早く、この世界においで。
この喜びを君にもあげよう。
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