蒼の瞳、紅の瞳
■ 33.皆で育てる

数か月後。
安定期に入った咲夜は今日も元気に護廷隊に来ていた。
今居るのは、雨乾堂である。
いつものように浮竹と茶を飲んでいる。


「最近お腹が膨らんできたな。」
浮竹が咲夜の腹に目を向けながら言った。
『あぁ。順調に育っているぞ。』
「そうか。それはよかった。楽しみだなぁ。」
浮竹はそう言って表情を緩ませる。


『ふふ。私もだ。』
「名は考えているのか?」
『そうだなぁ。候補はいくつかある。』
「性別はどっちなんだ?そろそろ性別が分かるころだろう?」
『ふふふ。それは生まれてからのお楽しみだ。烈さんと睦月しか知らない。』
咲夜はそう言って悪戯っぽく笑う。


「・・・お前に似た女の子だったら、白哉の苦労が倍になるだろうな。」
『あはは。そうかもしれない。』
「いや、お前に似た男の子でも大変そうだが。」
『確かに。でも、きっと、どんな子でも幸せになるよ。私と白哉の子どもなのだから。ちゃんと、幸せにするよ。私のような思いはさせない。』
咲夜は誓うように言った。


「そうか。」
『それから、朽木家に生まれたからと言って、当主になる必要もないと思っている。本人がやりたいというのならいいんだが。』
「おいおい、それは大丈夫なのか?」


『あぁ。当主などはやりたい者がやればいいのだ。長男、長女だからと言って、その者が当主になる必要などない。君だって、朽木家の当主にどれほど大きな責任があるか知っているだろう?』
「それはそうだが。白哉は何と言っているんだ?」


『ふふ。子をたくさん産めば一人くらいなってくれる者がいるだろうってさ。それに、当主は一人でなくてもよいと。二人、三人で仕事を分け合って協力すればいいと言っている。』
「・・・白哉らしいな。」


『あぁ。白哉は何でもない事のように隊長の仕事も当主の仕事もやっているが、いろいろ思う所もあるのだろう。その厳しさは、私もよく解る。漣家をまとめるだけでも大変なものだった。朽木家はそれに加えて、貴族全体をまとめる役割もあるからな。貴族の会合などは他の家は当主の代理で兄弟姉妹が来ることもよくあるそうなのだ。だが、白哉は一人っ子だからな。それが出来ないというのは、大変だろうな。』


「相手が貴族である以上、使用人を出すわけにもいかないからなぁ。」
『うん。それにね、当主の孤独を解ってくれる人が居た方がいい。私は、蒼純様や緋真さんが亡くなって、白哉が一番大変な時にそばに居てやれなかった。』
咲夜はそう言って目を伏せる。


「それは、仕方のないことだったろう。」
『うん。解ってはいるんだ。でも、きっと、白哉は寂しかったのだと思う。弱音を吐く相手が居なかったんだ。白哉に弱音を吐かせるのが私の役目だったのに。だから、兄弟姉妹が、それをやってくれたらいいなぁと思ってね。』


「そうだな。それはそうかもしれん。俺も兄弟が居てよかったと思うことがたくさんある。」
『そうだろう?自分の家のことなんだ。当主になったものが一人ですべてを背負う必要もないだろう?だから、生まれた順番も性別も関係なしに、誰もが朽木家の代表としていられるように、皆に当主の教育をしようと言う話になった。』


「ははは。それは、大変だな。」
『あぁ。清家などは、この話を聞いた時目を丸くしていた。でも、納得してくれたよ。清家は当主に仕えて長いからな。当主の苦労をずっと見てきたんだろう。』
「ははは。銀嶺殿も蒼純殿も表に見せることはなかったが、当主としての苦悩もあったのだろうな。」


『うん。そのようだ。お爺様も賛成してくれた。浮竹も協力してくれよ。朽木家の教育係だけでは大変だろうからな。』
「あぁ。もちろんだ。言っただろう?お前たちの子どもならば、俺たちの子ども同然だと。」
『ふふ。そうだな。みんなで育てよう。大切に。』
咲夜はそう言ってほほ笑んだ。
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