蒼の瞳、紅の瞳
■ 20.不安

「咲夜。」
漸く、白哉が口を開いた。
『ん?』
「・・・幸せか?」
唐突な質問である。


『幸せだぞ?白哉にこんなに愛されて、その証もここに居る。』
咲夜は自分の腹を撫でながらそう言った。
「そうか。」
ほっとしたような、声。


『うん。言葉では表せないくらい幸せだ。』
「あぁ。」
『ふふふ。不安になったのか?』
「・・・私ばかりが、幸せなのでなはいかと思ったのだ。見合いを潰して、勝手に婚約までして、無理に手に入れてしまったのではないかと。」
ぽつぽつと白哉は言った。


『今さら何を言っているんだ。』
「そなたは、いつも自由で、風のようにどこへでも飛んでいく。それを、私は縛り付けているのではないかと、思ってしまったのだ。」


いつものような凛とした声ではない。
ちょっと情けない声。
それすらも、可愛くて仕方がない。
愛おしいのだ。
白哉が私に、弱さを見せてくれることが。


『それは違うぞ。私がどこへでも飛んで行けるのは、帰る場所があるからだ。白哉が居るから私はどこへでも行けるし、強くなれる。』
「・・・そうか。」
『ふふ。君は知らないのだろうな。私がどれほど君を思って居るか。たぶん、君が思って居る以上に私は白哉を思っているよ。』


そうだ。
白哉はずっと、私の特別だったのだ。
私が自覚していなかっただけで。
その心を少しだけ、白哉に教えてあげよう。
私がどれほど、白哉に感謝しているか、助けられたか。
白哉と出会ってから、私の支えは白哉だったと言っても過言ではないのだ。


『・・・小さな君は、私を真っ直ぐに見返して、それからその小さな手を迷いなく私に伸ばしたのだ。』
「・・・?」
突然話し始めた私に白哉は首を傾げる。


『私はね、あまり子供に好かれないのだ。私の纏う雰囲気が彼らにとって居心地のいいものではないのだろう。子供は敏感だからな。まぁ、子どもでなくとも私に簡単に近づく者はあまりいないのだが。』
「そうなのか。」


『それなのに、白哉は初めから、私に手を伸ばした。臆することなく、真っ直ぐに。私は、それが嬉しかった。だから私も手を伸ばして、その小さな手に触れたんだ。そうしたら、ぎゅうっと、その小さな手で私の指を握ってくれた。』
あの喜びは、ずっと、私の支えだった。
私を必要としてくれる存在があるのだと、初めて実感することが出来た。


『君はそれから、安心したようにすやすやと眠ってしまったんだ。君が、無条件で私を信頼してくれたことが嬉しかった。私に怯えないことが嬉しかった。大切だと思った。君のためになら、何でもできると思った。君の傍に居たいと、思った。』
「・・・そうか。」


『君と初めて会った時のことだ。私はあの時君に恋をしたのだと思う。赤子に恋をするなど変な話だが。それからずっと君を思っているのだぞ?君が私を思うよりもずっと長く。私は君をずっと愛していた。それが当たり前すぎて自覚しなかったほどに。』
咲夜は言い聞かせるように言った。
『成長していく君の姿が、私を励ましてくれた。君の私への信頼が、私に他人を信じるということを教えてくれた。君がそばに居てくれたから、私は私で居ることが出来る。』


私の名前を呼ぶ声。
その指先から私を大切にしていることが感じられる大きな手。
優しい瞳。
温かな腕の中。
私を思ってくれる心。
時折見せる弱ささえも。
伝えきれないほど、私は君が愛おしいのだ。


『だから、そう不安にならないでくれ。君のそばに居ることを選んだのは私なのだから。私は君を愛しているのだから。』
「そうか。そうだな。・・・私も咲夜を愛している。」
そういう白哉から、微笑んだような気配がした。
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