蒼の瞳、紅の瞳
■ 9.逃げた者

当時を思い出したのか、十五夜の顔が苦しさに歪められる。
「お前は知らぬだろう。お前が朽木家に預けられ、笑顔で過ごしていた間に、姉上がどれほど苦しんでいたか。どれほど、悔やんでいたか。」


『お婆様が苦しんでいるのは私だって解っていた。私を殴るお婆様の目はいつも悲しそうで寂しそうだった。そして、その原因が私にあることも解っていた。だから私は、お婆様に逆らうことはしなかった。私が生まれたせいだから。生まれなければ良かったと、何度も、何度も思った・・・。』


「咲夜・・・。」
それは違うというように白哉はつながれた手に力を込める。
「姉上は、毎日泣いていた。私は霊王宮から水鏡でそれを眺めていることしか、できなかったのだ。あのとき、私は霊王宮から離れることが出来なかった。」


『だから、何もしなかったというのですか?私を見捨てたのですか?』
咲夜の声に怒りがこもる。
「・・・お前には、朽木家の人間が居ただろう。姉上には誰も居なかった。」
『助けてくれる人がいるなら、不幸になっても構わないと思ったのか!!』
「違う!!僕だって、君を助けたかったと言っているだろう!!!」


『違わない!!だって、貴方は何かと理由をつけて逃げていただけじゃないか。お婆様を助けることも、私を助けることもしようとはしなかった。霊王宮から離れられなかった?そんなことが理由になるわけがない。私だったら、大切なものを守るために手段は選ばない!自分がどうなっても、見ているだけで何もしないなんて選択はしない!!!貴方は、口では大切だと言いながら、結局一番自分の身が可愛かったんだ!』


「そんな、ことは・・。」
咲夜の言葉に十五夜は言いよどんだ。
・・・もう、限界だ。
「咲夜、もういい。・・・泣いていいぞ。」


咲夜の様子を見て、それまで静かに話を聞いていた白哉は咲夜を抱き寄せると、そう言った。
すると咲夜は、白哉の胸にすがりついて泣き始める。


「・・・咲夜の言うとおりだ。兄は、逃げたのだ。自分には何もできないと思い込んで。」
咲夜を抱きしめて、白哉は静かにそう言った。
「な、にを、言って・・・。」


「私も一度、逃げたことがある。掟と、約束に縛られ、身動きをとることが出来なかった。自分の妹を失いそうになったとき、私は何もしなかった。いや、何もできないと思い込んで何かをやろうとすらしていなかったのだろう。だがそれは、間違いだと思い知らされたのだ。」


あの、黒崎一護に。
ルキアを思い真っ直ぐにぶつかってきた恋次に。
無謀と解っていながら、仲間を助けようとやってきたあの現世の若者たちに。
彼らは、ルキアに迷いなく手を差し伸べた。
命を懸けて。


彼らの思いに私の刃は砕かれた。
そして私は気が付いたのだ。
自分が本当に大切にすべきものが何なのか。
私に足りないものが何であるかを思い知った。


「十五夜様。私もそう思います。私も自分の立場のために、咲夜殿を助けることまでは出来なかった。でも、だからと言って、何もしなくていいとは思いませんでした。」
「天音・・・。」


「いい加減、認めればいいんですよ。自分が一番弱かったって。僕は貴方のそういう弱さが大嫌いです。見ていて反吐が出ます。いつまで、そうやって自分を正当化しているんです?それで、うじうじ悩み続けて、貴方はどうなりたいんですか?」
響鬼は容赦なく言い放った。
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