蒼の瞳、紅の瞳
■ 8.祖母

『・・・お婆様は初めから、私など、見ていなかったのだな。』
「「!!!」」
咲夜の呟きに我に返ったのか、二人は息を呑んだ。
『お婆様は、私の名を一度も呼ばなかった。』


「それは、違う!!!」
大叔父が叫ぶように言った。
『何が、違うというのです?お婆様は私を漣家の道具だと言いました。』
あぁ、手が震えている。
少し思い出すだけでこれだ。


「咲夜。大丈夫だ。私が居る。」
それに気付いた白哉は私の手を握った。
『白哉・・・。』
大きくて優しい手。
その温もりに震えが治まっていく。
白哉の手は魔法の手だな。


『大叔父様。知っていますか。私は父上にも、母上にも、お婆様にも、このように手を握ってもらったことがありません。父上は私を殺そうとしました。母上は私を生んだことで体を壊し、ほとんど話す機会もありませんでした。そして、お婆様は私を何度も打ちました。私を牢へ閉じ込めました。』
話し始めた私を心配してか、白哉の手に力が入る。


『漣の家の者たちはそれを見ていながら、誰も手を差し伸べてはくれませんでした。私の名を呼び、私を私として見てくれたのは、漣家では叔母上だけでした。でも、叔母上はすでに嫁いでいた身。私のために勝手なことが出来る立場ではなかった。無理をして、私に会いに来ることが叔母上の精いっぱいだった。』


漣家の中で、私は独りだった。
だれも、私を見てなどくれなかった。
『私に温もりをくれたのは、銀嶺おじい様であり、蒼純様であり、白哉であり、友人たちだった。・・・漣家の人々ではなかったのです。そして、大叔父様、貴方でもなかった。貴方は私がどんな仕打ちを受けているか知っていながら何もしなかった。』


「確かに僕は君がどんな目に遭っているか、知っていた。・・・見ていて、とてもつらかった。」
大叔父様は声を絞り出すように言った。
『それでも、貴方は私を助けてはくれなかった。』


「僕だって、できることなら助けたかった。でも・・・できなかった。姉上の苦しみもよく解ったから。姉上は鏡夜を本当に誇りに思って居たのだ。愛していたのだ。漣家で初めての男の当主であり、剣の巫女だった。漣の女にとって、剣の巫女を生むことは大変な名誉であることは知っているだろう?」


『もちろんです。剣の巫女を生んだものは、漣家の中で剣の巫女の次に大切にされますからね。』
「そうだ。姉上は、そうやって、死ぬまで大切にされるはずだった。だが・・・咲夜が生まれた。お前の母は、朽木家から嫁いだものだ。他の家の女が剣の巫女を生み、そしてその巫女は、最愛の息子からその力を奪ったのだ。さらには、それを恨んだ鏡夜がお前を殺そうとした。姉上は、鏡夜を追放しなければならなくなった。・・・それからの姉上は見ていられなかった。」
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