■ 4.厄介な人物の到来
『・・・とうとう来たか。』
咲夜は額に手を当ててそう零した
と言うことは、恋次が見た扇は、「春乃嵐」だな。
あの人が霊王から賜った、宝具だ。
少し仰ぐだけでも雷やら突風やらが発生してしまう代物である。
・・・こんなところで使わないでくれよ。
「へ?咲夜さんの知り合いなんすか?」
『知り合い、というか・・・。』
身内だ。
割と厄介な。
漣の中でも最も厄介な人物ではないだろうか・・・。
はぁ。
「どうしたんすか?」
溜め息を吐いた咲夜に恋次が怪訝そうな顔で聞いた。
『いや、巻き込んで悪いな。』
「どういうことすか?」
『あー、うん。後で話す。今は白哉を取り戻す方が先だ。・・・何か言っていたか?』
「一緒に居た少年が、去り際に「漣家で待つ。」と言い残していきました。」
『・・・そうか。じゃあ、白哉は無事だろう。あそこには天音殿がいらっしゃるから。』
ほっとした表情で咲夜は言った。
「そうなんすか?・・・あの人、隊長の襟首を掴んで攫って行きましたけど。」
『・・・あとで、痛い目に遭わせてやる。恋次、片づけを頼む。悪いが私は手伝えない。少し用事が出来たから。白哉も今日はもう戻ってこられないだろう。』
「はい。解りました。」
「私も手伝おう。」
『そうか。悪いな、ルキア。頼んだぞ。では私はもう行く。』
そのころの漣家では、当主の天音が珍しく声を荒げていた。
「白哉様に何をなさっているのです!!!早くその手をお放しくださいませ!!!」
天音はそう言ってぴしゃりと白哉の襟首を掴んでいる手を扇子で叩いた。
「・・・痛いじゃないか。」
叩かれた相手は不満そうに言いつつ、手をさする。
「・・・。」
漸く解放された白哉は、不機嫌そうに乱れた襟をなおす。
一体何なのだ。
此奴は。
白哉は自らをここまで連れてきた人物をじろりと見つめる。
金髪に青い瞳。
普通にしていれば、女に騒がれるであろう甘い顔。
残念ながら今は、天音殿に正座をさせられ、なんとも情けない姿だが。
「白哉さまは朽木家の当主であらせられるのですよ!?いくら漣に連なるものだからと言って、許される振る舞いではありませぬ!!!」
「僕の方が偉いのに・・・。それに、僕に何も知らせないなんて酷いじゃないか!!!」
「何が酷いものですか!!!」
そう言って、天音殿は扇子でぴしゃりと再び彼の手を叩いた。
・・・前にもこのような光景をこの場所で見たような。
軽く既視感を覚えつつも、白哉は口を挟まない方が賢明であろうと、二人の様子を観察することに決めたのだった。
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