蒼の瞳、紅の瞳
■ 2.巫女は眠る

「・・・咲夜姉さまは、漣家がお嫌いなのでしょうか?」
ルキアがポツリとそう言った。
「嫌いと言うか、なんというか・・・。まぁ、いい思い出がないのは事実だな。」


「あぁ。まだ、漣の家を信じることは難しいのだろう。天音殿のことは信頼しているようだが。」
そう言って白哉は咲夜の頭に手を伸ばす。
そして髪を梳くように撫でた。
「そうだろうな。」


『ん・・・。』
触れられたことに反応したのか、咲夜は身じろいだ。
「姉さまは、漣家に居た頃のことをほとんど話しませぬ。」
「咲夜は、その頃のことを思い出すと、いまだに動揺するのでな。」


蒼純も、銀嶺も、そのことを悔いていた。
何故気付いてやれなかったのだろうと。
だから、二人は咲夜を大切に、大切に扱ったのだ。
本人に気付かれないように、様々な手回しをしていた。
そして白哉もまた、咲夜を放ってはおけなかった。


「俺も詳しくは知らないが、色々とあったのだろう?」
「あぁ。私が婚約を申し出たときに、天音殿はすべて話してくださった。祖母には相当きつく当たられていたらしい。」
「そうなのですか・・・。」


「漣の祖母も、不安定だったのだろうな。鏡夜殿の実の母親なのだから。自分の息子を追放しなければならないというのは、辛かったのだろう。」
「だからと言って、咲夜への仕打ちは許せるものではない。」
白哉の声には静かな怒りが滲んでいる。


「まぁな。出会ったころの無表情で感情の抜け落ちた様子は見ていて不安だった。本当に人形のようだった。」
「そのころの咲夜は何も感じられなかったらしいからな。五感が失われたようだったと。兄らに出会ったお蔭で感覚を取り戻すことが出来たと言っていた。」


「そうなのか?道理で・・・。」
浮竹は何かに納得したように頷いた。
「何かあったのですか?」


「あの頃の漣は怪我をしても顔色一つ変えなかった。傷が深くても漣は平然としていてな。治療もしないものだから、それに気付いた俺と京楽が慌てて医者に連れて行ったものだ。」
「今でも自分の怪我は後回しにする傾向があるからな。困ったものだ。」
白哉はそう言って咲夜を見つめた。


「さて、私は仕事に戻る。」
暫く咲夜に目を向けていた白哉はそう言って立ち上がる。
「漣は連れて行かないのか?」
「兄に預けておく。よく眠っているようだしな。ここの方が静かで安全だ。」


「そうか。」
「京楽が来ても触れさせるなよ。」
「お前は京楽に対して少し厳しすぎるぞ。」
浮竹は呆れたように言った。


「あれは、咲夜に触れすぎなのだ。兄からも勝手に触れるなと言っておけ。」
白哉は不満げに言った。
「俺はいいのか?最近の漣はやたらと俺にくっついてくるんだが。」
浮竹がからかうように言う。


「・・・咲夜から触れる分には許してやる。」
複雑そうな顔をしながらも白哉はそう言った。
「ははは。そうか。」
「・・・仕事が終わったらまた来る。」
白哉はそう言って雨乾堂を出て行ったのだった。
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