蒼の瞳、紅の瞳
■ 37.草薙の頭領

『さて、睦月。』
「なんだ?」
『朽木家の許可が下りたぞ。白哉、渡してくれ。』
咲夜に促されて白哉は懐から書類を取り出した。


「そなたが草薙睦月か。本日より、朽木家の医師に任じる。朽木家からの呼び出しがあれば何よりも優先して駆けつけるように。」
「はい。承りました。」
白哉に頭を下げて睦月はそれを受け取った。


『もちろん、霊術院の医師も続けていいぞ。朽木家に病人が居なければ仕事はないからな。まぁ、今回みたいに四番隊の人出が足りないときには派遣することもあるだろうが。』
「あぁ。それでいい。礼を言う。ご当主様にも何とお礼を言ったらいいか・・・。」


「構わぬ。私は咲夜の求めに応じただけだ。」
『ふふふ。さすが白哉だ。さて、これで睦月はもう草薙には戻れない。弥生さんといったかな。君、その旨を報告してきてくれ。』
「はい。」


「その必要はない。」
何処からか、しわがれた声が聞こえてきた。
「「この声は!?」」
睦月と弥生が驚いた声を上げると、音もなくフードをかぶった老人が現れた。
「お早いお着きで・・・。」
思わず睦月は苦笑いをこぼした。


「ふん。儂を誰だと思うとる。」
「お久しぶりです、頭領。」
「逃げた者など知らんわい。」
「・・・申し訳ありませんでした。」
睦月は気まずそうにそう謝った。


「知らんと言うとるじゃろが。何を謝ることがある。」
「俺は一族を見捨てました。・・・後悔はしておりませんが。」
「構わん。お主が滅びてしまえと思うのならば、潮時なのじゃ。儂は老いた。すでに一族の混乱を止めることも出来ぬ。お主にその気があるならば任せようかとも思ったがの。何処へなりと行くがよい。」
「はい。」


「弥生。お主もだ。お主はまだ若い。才もある。一族にこだわらずともやっていけるじゃろう。」
「お婆様・・・。ありがとうございます。」
彼女はそう言って頭を下げる。
睦月もまた頭を下げた。


「・・・若き朽木の当主よ。」
そんな二人を一瞥して、草薙の頭領は白哉に声を掛けた。
「何だ。」


「睦月は草薙の秘術を知って居る。そして、そちらは漣の巫女。それも、漣の中でも特殊な巫女であるとみえる。草薙の秘術と漣の巫女。この二つは常人の手には負えぬもの。それを背負えるか。利用しないと誓えるか。」
老婆は白哉を真っ直ぐに見てそう言った。


「あぁ。もとよりそのつもりだ。私は草薙の頭領の能力などに興味はないのでな。草薙睦月を受け入れたのは咲夜がそう願ったからだ。医師としての務めを果たしてくれればそれで良い。そして、咲夜は私が護ると決めている。誰であろうと利用することなど許さぬ。そなたに問われるまでもない。」


はっきりと答えた白哉に、老婆は目を眇める。
「・・・そうか。漣の巫女よ。」
『何でしょう?』
「今、そなたは幸せか?」


『はい。とても幸せです。愛し、愛される幸福を知ることが出来ましたから。』
咲夜は白哉の手を取り、微笑む。
「そうか。良き夫なのだな。良き夫はそなたの助けとなろう。大切にするがよい。」
『はい。』
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