蒼の瞳、紅の瞳
■ 36.己の道は己で選ぶ

「咲夜・・・。」
話し終えて、気が付くと、白哉が後ろに居た。
『白哉?』
いつ来たのだろう。
私はそれほどまでに動揺していたのだろうか。


「そなたの霊圧の乱れを感じた故、早々に仕事を切り上げてきた。」
『そうか。君はいつも気が付いてくれるな。』
咲夜はそういうと、振り向いて白哉の胸に手をそえて、彼の肩に額を寄せた。
そして、ひとつ、深呼吸をする。
白哉の温もりと香りに安心して、涙が出そうだ。


「どうした?」
『少し昔を思い出しただけだ。・・・私はまだ乗り越えられていないらしい。』
自分の声が震えているのが分かる。
「無理はするな。私が傍に居る。そうだろう、咲夜?」
それに気が付いた白哉に、宥めるように頭を撫でられた。


優しくて温かい手。
今の私はそれを感じることが出来る。
『・・・うん。ありがとう。もう大丈夫だ。君が来てくれたから。』
咲夜はそう言って、白哉を見上げて微笑んだ。
「そうか。」


『頼んだものは?』
「用意した。」
『さすがに早いな。』
「急がせたのだ。」
『ふふふ。詳しいことを何一つ説明していないのに。』
「そなたを信じているからな。」
『うん。信じてくれてありがとう。私も信じていたよ。』


「・・・草薙の一族はそこまでしないわ。そんなこと、しない。」
咲夜の話を聞いて呆然としていた弥生が静かにそう言った。
それを聞いて、咲夜は弥生に向き直る。
『確かに、私が経験してきたものは極端なものだろうが、本質的には同じものだよ。家のために、個人を殺す。他人に決められた道を歩く。貴族の中でも当たり前に行われていることだが、それで得られるものとはなんだ?』


「それは・・・。」
咲夜の問いに弥生は言葉を詰まらせる。
『富か?名誉か?地位か?それとも、一族の存続か?生きる中で一番大切なものはそんなものなのか?睦月、君はどう思う?』


「俺は・・・。俺は、自分の生きる道は自分で決めたい。始めは一族から逃げたい一心だったが、今は違う。一族の外に出てそれがよく解った。俺は、自分で決めた道を選ぶ。そしてその道は、草薙に戻るという道ではない。」
睦月はひたと弥生を見つめてそう言い切った。


「じゃあ、草薙は、私は、どうなるの?」
狼狽えるように弥生は言った。
「一族が滅んでも、弥生は生きられるさ。俺のように医師にでもなればいい。お前はお前で、自分の好きなように生きればいい。草薙がなくなっても、俺とお前のつながりが消えることもない。お前が自由に生きることを願うのならば、俺もそれを応援しよう。」


「・・・私、本当は辛かった。如月も卯月も、皐月も葉月も、死んでしまったの。一族の者に祭り上げられて。みんな、殺されたの。私たちの知恵はそんなことに使うためにあるものではないのに。殺すためではなく、生かすためのものなのに。それを知って居ながら、誰も争いを止めようとはしなかった。お婆さまさえも。」
弥生の声は震えていた。


「・・・私は、もう誰も失いたくない。これ以上誰かが殺されてしまうのは見たくない。睦月なら何とかしてくれると思ったの。だから、私はお婆さまの言うとおりにあなたを探した。でも、間違っていた。その人の言うとおりだわ。私がしようとしていたことは睦月を縛ることだったんだわ・・・。」
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