蒼の瞳、紅の瞳
■ 42.茶道

『しかし、とりあえず何か礼をしなければな。』
そう言って咲夜は考え込む。
『・・・そうだ!もうすぐ叔母上の誕生日だな。祝いの茶会でも開こう。』
「咲ちゃんが点てるのかい?」
『まさか。白哉がやってくれるさ。』


「・・・は?」
静かに酒を呑んでいた白哉が、不満そうな声を出した。
『いいじゃないか。』
「なぜ私が・・・。」
『だって、白哉が点てた方が美味しいよ?』


「ねぇ、咲ちゃんって茶道とかできるの?」
「そういえば、そうだな。漣も茶道や華道は教えられているのだろう?」
『それは、そうだな。』
二人の言葉に咲夜の動きがぎこちなくなる。


「ねぇ、今度僕に点ててよ。ちゃんと着物を着てさ。」
「それはいいな。俺もぜひ呼んでくれよ。」
『いや、その、だな・・・。』
咲夜は挙動不審になっていく。

「・・・そなたは、茶など点てられたのか?私は見たことがないが。」
『えぇと、だな。点てられなくもない、かな?』
咲夜は微妙な顔をしていった。
「・・・もしかして、咲ちゃん、点てられないの?」
そんな咲夜の様子に京楽が言った。


『・・・そんな、ことは、ない、はず。』
咲夜の声はだんだん小さくなっていく。
「点てられぬのか。」
白哉がそんな咲夜をチラリと見ながら言う。


『う。はい。点てられません。』
「「えぇ!?」」
咲夜の答えに浮竹と京楽の驚きの声が響く。
それから白哉の深いため息も。
「え?じゃあ、咲ちゃん、茶会のとき、どうしていたの?漣家だって茶会を開くことぐらいあったと思うけど。」


『・・・白哉を呼んで、私の代わりに点てるように仕向けた。今日は朽木家の嫡男が来ていて、彼はお茶を点てるのが得意なんですよって。そういうと、周りは白哉に目を向ける。白哉とは従姉弟だし、漣家の茶会で茶を点てていても不思議ではないだろう?』
「そのような理由で、私は幼いころから漣家の茶会に呼ばれていたのか。」


『だって、その方が美味しいし、朽木家の嫡男が点てた茶を飲む機会なんてそうないから、客人たちも喜んでいた。さらに言えば、私はその間に客人への挨拶もできたから、おかげでスムーズに事が進められた。・・・大体、私にあの作法ばかりの茶道などできるわけがないだろう。』
咲夜が拗ねたように言った。


「あはは。漣らしいな。」
『いいだろう、別に。出来なくて困ることなんてないんだ。』
「朽木家では、毎年、茶会が開かれている。そなたは私の妻なのだから、必ず参加するのだぞ?」
白哉が呆れたようにいった。


『いつも白哉が点てていたのだから、これからだって、それでいいだろう。私がやる必要などない。飲む方の作法は問題ない。』
「では何故点てられぬのか・・・。解せぬ。」
『点てるのと飲むのは別だろう。それに飲む方は楽しめばいいのだ。作法など二の次でいい。だが、茶を点てるには、道具の名前や作法を覚えなければならぬだろう。私はそんなものに興味はない。』


「あはは。咲ちゃんにもできないことがあったんだねぇ。」
「そうだな。普通に茶を淹れるなら美味いのにな。茶道は駄目か。」
二人は笑いながら言った。
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