蒼の瞳、紅の瞳
■ 41.私の気分

『ほら、早く書いて出しに行かないと、死神で居られなくなるぞ?この文書が君の家に届けられる前に提出しないといけないんだから。まあ、二宮家の者を捕縛する指揮権は浮竹と京楽に降りてきているから、それは問題ないんだが。』


「でも、これって・・・。」
『早く書かないか。君まで追放になってしまうぞ?』
「そんな、だって、私は貴女に酷いことをしようとした!」
『それはもう忘れたと言っただろう。』
「何故?どうしてそこまでするの?」


『ふふふ。私の気分だよ。私のお眼鏡にかなったんだ。だから、君は遠慮なく、漣家の養子になればいい。そうすれば、死神で居られる。追放された家族の助けになることもできる。ついでに、君はもう自由だ。家のことなんか気にせずに、誰かと幸せになることだってできるんだよ。家のために、君が縛られることはない。』


「でも、私には、そこまでしてもらっても、返せるものがありません。」
『そんなもの、いらない。』
「でも!!」
『あーもう!!面倒だな、君は。解った。じゃあこうしよう。私が君に死神で居て欲しい。・・・これで、いいだろう?』


あぁ、本当にこんな人に、私なんかが敵うはずがなかったんだ。
「・・・はい。ありがとう、ございます。」
そういって、玲奈は震える手で自分の名を書いたのだった。
『よし!いい子だ。』
そう言って頭を撫でてくれる手はとても温かだった。


その日の夜。
咲夜は、白哉、浮竹、京楽とともに、酒を呑んでいた。
場所は十三番隊の桜の木の下である。
すでに花は散り、葉が茂っている。


『ふふふ。いやぁ、この一か月、大変だったね。』
そう言いつつも咲夜はご機嫌である。
「そうだねぇ。」
「しかし、漣。あの養子縁組の書類は何時用意したんだ?」
浮竹が不思議そうに言った。


『二宮家の調査を始める時に、叔母上に頼んでおいたのだ。彼女の様子から、何も知らされていないのかもしれない、と思ってね。』
「よく間に合ったな。」
『そうだねぇ。間に合わなければ、山じいへの報告を遅らせるつもりではいたが。』
「二宮家の了承はあったのか?」


『さぁ?あったからあの書類が私の手元に届いたんじゃないかな。まぁ、叔母上が上手くやってくれたのだろう。』
「天音殿か。あの方の手腕はなかなかのものだな。それに器の大きな人だ。」
『そうだね。私の我が儘を何も言わずに引き受けてくれた。叔母上は、いつも私を助けてくれる。』


「天音殿が漣家の当主になったのは、漣のためらしいな。」
『そうなのか?』
「あぁ。お前が帰ってきたとき、支えることができるようにと。」
『・・・そうか。叔母上が当主になるとき、相当な苦労があったのは知っていたが・・・。』


「そのようだな。天音殿は一度他家に嫁いだ身だ。漣家に戻って当主になるなど、そうできることではない。」
『あぁ。叔母上の義母は厳しい方だったようだからな。弥彦叔父上は次男で跡取りではなかったらしいが、義母には相当恨み言を言われていたとか。』


「だが、最終的には漣に戻ることを許してくれたのだろう?」
『まぁな。叔父上が説得してくれたらしい。・・・叔父上にはどれほど礼を言っても言い足りない。家を捨て、漣の名を名乗ることを決断してくださった。』
「最近、弥彦殿のお姿を見ないが、どうかしたのか?」


『いや、忙しいだけだ。漣家の領内をあちらこちら見て回るのが好きな人なのだ。厳しい家であまり外に出ることがなかったせいか、外の世界が面白くて仕方がないと。漣に来てからの方が生き生きしていると、叔母上も言っていた。まめに文が送られてくるから、お元気なのだろう。』
「そうか。」
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