蒼の瞳、紅の瞳
■ 29.始動

『失礼するよ。』
いつものようにノックもせずに咲夜が現れる。
「どうした?」
書類から目を上げて咲夜を見ると、なにやら疲れているようだ。


『いや、ちょっと精神的に疲れたから、休憩だ。お茶でも飲まないか。淹れてきたのだけれど。』
そういう咲夜の手には湯呑が二つ乗ったお盆がある。
「・・・あぁ。」


咲夜の様子が気になって、白哉は彼女とともに休憩をとることにした。
長椅子へと移動する。
すると、目の前に湯呑がことりと置かれた。
咲夜も私の隣に座る。
そしてそのまま倒れてきて、私の膝に頭を乗せた。


「・・・どうした。」
『ん?』
「何かあったのか?」
咲夜の頭を撫でつつ聞いてみる。
『いや、な。・・・二宮の姫が動いた。』
咲夜がそう呟いた。


「どういうことだ?」
『余程、私と蓮が気に入らないらしい。・・・今、隊士たちの間で流行っている噂を知っているか?』
「知らぬ。」
『私が蓮を囲っているという噂だ。それから、私たちが不仲だというものもある。』


「何だと?誰がそのようなことを。・・・二宮の姫なのか?」
白哉の声に剣呑なものが含まれる。
『ふふふ。恐らくね。』
「下らぬことをする。」


『そうだね。・・・私はこの噂を利用しようと思う。』
「何をする気だ?」
『君も二宮家の噂を知っているだろう?』
「あぁ。どうやら、麻薬によって富を築いているらしいな。」


『そうだ。噂だけで証拠はないが、私は、本当だと思うよ。二宮家の財産で、あれだけの規模の鉱脈開発をすることができるとは思えない。それに、この間二宮家の領地に行ってみたのだが・・・。』
「また一人でふらふらと・・・。」
白哉が呆れたように言った。


『あはは。ごめん。でも、みんなの様子が変だったんだ。こう、普通に振る舞ってはいるが、目が正気じゃなかった。隠しているようだが、麻薬の匂いも微かにしていてな。』
「それは真か?」
『あぁ。だが、やはり決定的な証拠がなくてな。』
「そうか。」


『放って置くわけにはいかないだろう?』
「そうだな。朽木家の領地にまで蔓延されては困る。」
『だから、君に協力してほしいんだ。』
「それは、構わぬが。」


『そうか。では、朽木家の者を使って二宮家の資産状況を詳しく調べてくれないか。それから、資金の流れも。』
「よかろう。」
『ふふふ。ありがとう。それと・・・。』
「なんだ?」


『証拠が掴めるまで、私と距離を置いてくれないか。』
咲夜の言葉に白哉の眉間にしわがよる。
「何故だ。」
『その方が動きやすい。それに、相手はそれを狙っているからな。私が君から離れれば、必ず二宮家が近寄ってくる。そしたら、うまい具合に話を聞き出せるかもしれない。』


「・・・嫌だ。」
そう言った白哉の頬に咲夜は手を伸ばす。
『そんな顔をするなよ。ちゃんと朽木家には帰る。漣家に帰ったふりをした後にこっそりとね。護廷隊に居る時だけでいい。』
「・・・わかった。」
じっと見つめてくる咲夜に白哉は渋々折れたのだった。
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