蒼の瞳、紅の瞳
■ 24.差し入れ

「そうだ。これ、差し入れです。あれだけ動いていたらお腹も空くでしょう。簡単なもので悪いのですが。」
そう言ってイヅルは重箱を咲夜に渡した。
『お弁当か!?』
咲夜の目がキラキラと輝く。


「はい。稲荷寿司を作ってみました。卵焼きもありますよ。」
『楽しみだ。ありがとう。』
「いえ。こんなもので良ければいつでも。・・・それから、これは噂なんですが。」
イヅルの顔が真剣なものになる。


『なんだ?』
「なにやら、咲夜さんを気に入らない方が居るようで。」
その言葉に咲夜はニヤリとした。
『へぇ?それで?』
「平隊員の中でよからぬ噂が流されていますよ。」


『ほう?それはどんな?』
「朽木家の妻が、若い少年を囲っていると。朽木夫妻の不仲説まで流れているようです。」
『そうか。まぁ、放って置いてくれてかまわないよ。』
「いいんですか?」
『あぁ。いつか来ると思って居たからな。』


「心当たりがあるんですか?」
『まぁな。どうやら私は敵が多いらしい。』
そう言いつつも咲夜は楽しそうだ。
「・・・貴族の姫ってところですか。」


イヅルの呟きに咲夜は目を丸くした。
『君は鋭いなぁ。・・・たぶんそうだ。この間絡まれてな。面倒だから適当にあしらおうとしていたんだが、なかなか引いてくれなくて。だから、つい、毒を吐いてしまった。』
「それ、大丈夫なんですか?」


『大丈夫さ。私を誰だと思って居るんだい?朽木家当主の妻だぞ。それに、その辺の奴らには負けないよ。私に手を出すなど、余程寿命を縮めたいらしい。』
咲夜の顔が悪いものになる。
「・・・怖いですよ、咲夜さん。」


『ふふふ。私を白哉から引き離したいんだろう。それで、自分が妻になることでも画策しているのではないかな。』
そういう咲夜さんの表情には何の不安も浮かんではいなかった。
実は咲夜さんって朽木隊長のこと大好きだよなぁ。
傍から見ていると、咲夜さんが朽木隊長に愛されているだけに見えるけれど。


「あはは。それは、大変な野望ですね。朽木隊長と咲夜さんを見ていれば、誰も間に入ることなどできないのは明白でしょうに。」
『まぁ、私たちは政略結婚ではないしね。貴族では珍しいみたいだ。ただ、私と白哉は従姉弟だから、政略結婚だと思って居る輩もいるようだが。私は漣家の生まれだしね。』


「漣家は謎の一族とされていますからね。巫女の一族ということは知られていても、あまり表に出てこない。それに、家同士の付き合いがあるのは漣家よりも権力を持つ大貴族だけですし。そんな漣家と朽木家が婚姻によって結ばれた。それも、二度も。それは、他の貴族からしたら脅威でしょうね。」
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