蒼の瞳、紅の瞳
■ 23.本当に無自覚な人

「・・・なんだか、見た目だけだと平和ですね。」
咲夜が稽古をする三人を見ていると、イヅルが現れた。
『イヅル。どうしたんだい?』
「咲夜さんが弟子をとったというので見学に来ました。噂になっていますからね。」
『そうか。・・・イヅルは、どう思う?』
咲夜に問われて、イヅルは蓮をじっと見つめる。


「・・・強くなると思いますよ。南雲君の動きはしなやかで軽い。それを咲夜さんが指導するんですから。」
『そう思うか。』
「はい。また恐ろしい後輩が出てきました・・・。」
イヅルはそう言って遠い目をする。


『あはは。君だって、先輩たちから見れば恐ろしい後輩だろう。あっという間に副隊長なんだから。』
「それは、そうかもしれないですけど・・・。入隊してすぐに咲夜さんの個人指導を受けられるなんて羨ましいです。それも毎日付きっ切りで。」


『そうか?』
「そりゃあそうですよ。僕なんか、入隊してから咲夜さんの指導を受けられたのは数回なんですから。」
『それは、君が忙しくしていたからだろう。』
「まぁ、それもありますけどね。咲夜さんがこれまで指導してきた人たちを見れば羨ましいと思いますよ。現隊長のうち二人も咲夜さんの教え子なんですよ。副隊長だって五人も咲夜さんの教え子じゃないですか。」


『そういえばそうだったな。』
咲夜は何でもない事のように頷いた。
「あまり興味がないみたいですね。」
そんな咲夜にイヅルは呆れたように言った。


『いや、そういう訳じゃないさ。教え子が隊長や副隊長になってくれるのは嬉しい。だがそれは、その子自身の力だよ。どんなに才能があっても、どれほど優秀でも、努力が出来て、人望がなければ、隊長格にはなれないからね。私は、手伝いをしているだけだ。成長を見るのは面白い。』


「でも、僕は副隊長になれたのは咲夜さんのおかげだと思って居ます。あの日、あの、初めての実習の日。僕は自分の無力さを知りました。己の無力に押しつぶされそうでした。それはきっと、阿散井君や雛森君も。でも・・・。」
『うん?』


「咲夜さんが、僕たちに言ってくれました。「早いうちに自分の無力さを実感できたのは幸運なことだ。無力なのは私だって同じだ。一人は無力だ。だから仲間とともに歩んでいけばいい。」って。僕たちはそれで救われたというか・・・。」


『そんなこと言ったっけ?』
咲夜はきょとんとしている。
「えぇ!?そんな・・・。」
咲夜の様子にイヅルはがっくりとうなだれる。


『あはは。』
「・・・まぁ、いいですよ。それが咲夜さんですよね。自分がどれほど大きな影響力を持っているのか自覚がないというか。」
『へ?影響力?そんなもの私にはないぞ?』
「・・・。」


本当に自覚がないらしい。
イヅルは内心呆れた。
「咲夜さんの何気ない一言に心を動かされる人はたくさんいるんですよ。」
『・・・そうか。それは、いいことなのか?』
「えぇ。いいと思いますよ。」
『じゃあ、まぁ、よく解らないけど、いいか。』
咲夜はそう言って屈託なく笑った。
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