■ 16.昔の話A
咲夜の問いに京楽はその噂を思い出す。
そして、若干苦い顔になった。
「あったねぇ。咲ちゃんが貴族の男子とあちらこちらで遊びほうけているってやつね。」
『あぁ。大方どこかの姫のやっかみだろうけどな。それで、もういいや、って。試験だけ受ければ死神になることは出来るんだからって。そう思って、教室に行くのをやめたんだ。』
「そうだったの。それなのに、僕らが山じいのところに行ったら、咲ちゃんそこに居るんだもの。あの時は驚いたよ。」
『あはは。授業をサボっているところを見つけられてな。で、逃げたんだ。もちろんすぐに捕まったのだけれどね。あの時、私は怒られると思ったんだよ。それなのにさ、山じいったら何も聞かずに「では儂が指導してやろう」って言ったんだ。』
「へぇ。山じいがねぇ。」
『たぶん、山じいは私のことを知っていたんだろう。私が漣鏡夜の娘であることを。それからきっと、私が授業に出ていないことも。』
咲夜は苦笑した。
「なるほどねぇ。山じいも咲ちゃんのこと放って置けなかったんだね。」
『そうかもな。あのままだったら、私は今ここには居なかっただろう。きっと、もっと捻くれて手に負えなくなっていたと思うよ。山じいは私より強かった。だから私は、全力で山じいに向かっていくことができたんだ。学院ではそんなことできなかったから、それが楽しかった。毎日泥だらけの傷だらけにされたけどね。』
「それは僕らもそうだった・・・。山じいったら容赦ないんだもの。」
京楽はげんなりとした表情で言った。
『ははは。そうだな。でも、感謝しているさ。おかげで力もついたし、浮竹や京楽と出会えた。山じいとの出会いは私の人生の中での幸運の一つだな。』
咲夜はそう言って笑顔を見せる。
「咲ちゃんがそう思ってくれているなんて嬉しいなぁ。」
そして、彼女が笑っていることも。
笑う咲夜を見て、京楽は感慨深くなるのだった。
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