蒼の瞳、紅の瞳
■ 15.昔の話@

「失礼するよ。」
咲夜が浮竹の治療をしていると、京楽がやってきた。
『京楽。』
「浮竹の調子は?」
浮竹の顔色を覗きながら京楽が咲夜に聞いた。


『眠れていないことで体力が落ちていたようだ。さっき眠らせた。よく寝れば回復するだろう。』
「それは、よかった。」
京楽はそう言って咲夜の隣に座る。


『・・・京楽って浮竹のこと大好きだよな。』
咲夜がポツリと呟いた。
「え?」
咲夜の言葉に京楽は目を見開く。


『だって、昔から浮竹が体調を崩すと、いつも見舞いに来るじゃないか。』
「そりゃあ、心配だからね。それに・・・咲ちゃんだってそうだろう?」
『まぁ、な。浮竹にはいつも世話になって居るからな。』
「僕だってそうさ。」


『私たちは浮竹に甘えてばかりだよな。』
咲夜は浮竹の顔を見ながらそう言った。
「そうだねぇ。僕らが悪さをすると、いつも浮竹が一緒に謝ってくれるんだよね。」
『そうそう。だから、つい、悪戯をしてしまう。』


「あはは。まぁ、後で浮竹に怒られるんだけれどね。」
京楽は苦笑する。
『山じいも浮竹が謝り倒すと折れてくれるしね。』
「僕と違って浮竹は素で日頃の行いがいいからね。山じいもそんな浮竹をきつく叱ることができないのさ。」


『だからだろうか。浮竹は、無条件に信じられたんだ。私は、自分の能力がどういうものかよく解っていた。それはきっと、院生のときだって。だから他人に心を開くことがなかなか出来なくてね。』
「そうだね。咲ちゃんに初めて会ったとき、他人を拒絶する雰囲気があったもの。」


『やっぱりそうか。』
「うん。始めは、漣家の生まれだと聞いていたから、巫女ってそういうものなのかなぁ、くらいにしか、思って居なかったのだけれどね。よく見ていると、そうでもないらしい、ということに気が付いた。」


『よく見ていたのか?』
咲夜が悪戯っぽく笑う。
「いやいや、変な意味じゃなくてさ。だって咲ちゃん、いつも一人だったから。ちょっと気になってさ。浮竹とどういう子なんだろうって、話していたんだ。」
『そうなのか。』


「そうさ。だって、容姿端麗、頭脳明晰、実力も家柄も申し分なし。・・・それなのに、笑った顔を見たことがなかったから。貴族なのに愛想笑いすらないんだもの。寄るな触るなって感じだったよ。」
確かにそうだった。
咲夜は当時のことを思い出す。


『あの頃は、家の中で色々とあってな。父のことを聞いても誰も答えてくれない。母が亡くなったりもしてな。その上、突然霊術院に行けと言われて、正直、面白くなかったんだ。祖母たちが何かを隠すために私を外に出すんだってね。まぁ、それは実際そうだったのだけれど。』


「僕らはそんなこと知らなかったからさ。でも、何だか放っておけなくてね。なんとなく、気にかけていたんだ。そしたら咲ちゃん、ある時からほとんど姿を見せなくなったでしょ。授業にすら出てこないし。」
『そうだな。正直、授業は面白くなかった。家に居たときに習った事ばかりだったから。それに、噂があっただろう?』
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