蒼の瞳、紅の瞳
■ 8.面倒な女

「咲夜さまは、新人の指導に当たっておられるそうですね。」
『えぇ。それが何か?』
「よろしければ、私にもご教授願えませんか?」


・・・なるほどね。
私を利用して朽木家に近付こうという訳だ。
そう言えば、二宮家が白哉に見合いの写真を届けていたな。
それは、この娘だったかもしれない。
興味がなかったからよく見ることはしなかったけれど。
白哉は写真を見ることすらしていなかったなぁ。


『申し訳ありません。私は一人ずつ指導をすると決めておりますので。』
もちろん嘘だが。
咲夜は早くお湯が沸くことを祈りながら答えた。
あぁ、こういうのは面倒なんだ。


「・・・そうですの。それは残念ですわ。」
言葉と表情が一致していない。
『申し訳ありません。またの機会に。』
もちろん社交辞令である。


漸くお湯が沸いたようだ。
咲夜は火を止めて、まずは湯呑にお湯を注ぎ、その後湯呑から急須にお湯を注いだ。
するとお茶の香りが広がる。
『いい香りだ。』
咲夜がそう言うと後ろに居た隊員の一人が答える。


「それはそうですわ。朽木家からの差し入れの品ですもの。」
『そうでしたか。』
咲夜はそう言いつつ、お茶を湯呑に注いだ。


咲夜の動きを彼女たちが凝視しているのが感じられる。
早く、戻りたい。
切実に。
咲夜はお茶を淹れ終わると、急須を洗う。


「ねぇ、咲夜さま。」
『はい?』
急須を洗いつつ咲夜は返事をした。
「本当に、咲夜さまにご指導いただけないかしら?」


あぁ、もう、面倒だな。
まだ諦めてくれないのか。
『・・・申し訳ありません。』
「なぜ、あの子ですの?」
『あの子?南雲蓮のことですか?』


「えぇ。何故あの子はよくて、私は駄目なのかしら?あの子は流魂街出身で私は貴族出身ですのよ?」
『駄目という訳ではありませんよ。ただ、私はあの子の指導で手一杯なのです。』
「私、強くなりたいの。」


・・・心にもないことを。
咲夜は内心毒づいた。
『貴女自身が強くなくても、貴女を守ってくれる殿方は幾らでも居られるはずです。二宮家の姫君と聞けばすぐにでも誰かが駈けつけてくれるでしょう。それに、貴族出身だとか、流魂街出身だとか、私には興味がないのです。』


咲夜はあえて笑顔で言い放った。
咲夜の言葉に後ろに居る隊員が凍りつく。
「嫌ですわ。私は死神として、本当に強くなりたいと・・・。」
そんな咲夜の言葉に、二宮玲奈は取り繕うように何か言おうとしている。


咲夜は急須を洗い終えると手を拭いた。
そして湯呑をお盆にのせて持つと、彼女の話を遮るように言った。


『では、正直に申し上げます。私は、貴女に魅力を感じないのですよ。・・・教えたいという気にならないのです。でも、あの子は、南雲蓮はそんな気にさせてくれる。それに、才能もある。私に教わりたいのなら、私をその気にさせてください。私の心を動かしてみなさい。・・・そうすれば、いくらでもお教えいたしますよ?もちろん、遠慮なく指導させていただきますが。それでは、私はこれで。白哉様がお待ちですので。』


咲夜は笑顔で言い切ると、言葉を失っている彼女たちを振り返ることもなく、さっさと給湯室を出て行ったのだった。
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