蒼の瞳、紅の瞳
■ 33.ただいま

なんだか、見てはいけないものを見ている気がする。
そう思ったのは自分だけではないだろう。
浮竹は咲夜と白哉の様子を見てそう思った。


「・・・ねぇ、浮竹。」
京楽が小声で名を呼んだ。
「なんだ?」
浮竹も小声で答える。


「咲ちゃんって、酔うとああなるんだね。」
「そうみたいだな。・・・酔っているのを見るのは初めてな気がする。」
ほんのり色づいた肌にうるんだ瞳。


「僕もだよ。だって咲ちゃん、僕らよりお酒強いもんね。」
「あぁ。というか、あの二人ここが公衆の面前だということを忘れていないか?」
「いや、朽木隊長は気が付いているだろうさ。さっきから周りの視線に刺々しい霊圧を当てているもの。」


「まぁ、そうだよな。あの姿は少し、あれだよな。」
なんとなく咲夜から目線をそらしつつ浮竹は答えた。
「本当に、朽木隊長は苦労するねぇ。咲ちゃんてば無防備すぎ。」
「ははは。京楽、あんまり見ていると白哉が怒るぞ?」


「いやぁ、だって、眼福じゃない。咲ちゃんだけじゃなくて朽木隊長もきれいな顔をしているからねぇ。皆も見ているのは咲ちゃんだけじゃないと思うよ。」
京楽の言葉に、浮竹は白哉を見た。


周りに刺々しい霊圧を当てつつも、柔らかい視線を漣に注いでいるのが解る。
漣を撫でる手はどこまでも優しい。
「白哉も大きくなったなぁ。」
そんな彼を見て、浮竹はそう呟いたのだった。


ふと、咲夜は目を覚ました。
何か夢を見ていた気がする。温かな夢だった。
咲夜が目を覚ましたのに気が付いたのか、上から声が降ってくる。
「起きたか。」
どうやら彼の膝枕で眠っていたらしい。


『うん。どのくらい眠っていた?』
「半刻も寝ていない。」
『そうか。』
咲夜が起き上がると、パサリと白い羽織が落ちた。
『これ・・・。』
それは、隊長の羽織だった。


そうか。
夢の中の温かさはこれだったか。
「気温が下がってきたからな。」
『ふふふ。ありがとう。』
そう言って咲夜が返そうとすると、

「着ていろ。」
と白哉は羽織を咲夜の肩にかけた。
『いいのか?』
「構わぬ。」
『ふふふ。あったかい。』
「そうか。」


『浮竹たちは?』
「あそこだ。先ほどから隊員たちに囲まれている。」
咲夜は白哉の視線をたどった。
二人の周りに隊員たちが大勢集まって何やら質問をしているようだ。


『本当だ。ふふ、楽しそうだな。』
「・・・嬉しそうだな。」
咲夜の表情を見て白哉が言った。


『あぁ。こうやって、みんなで騒げるのは楽しいよ。席次も性別も関係なく、みんなが笑っている。私はそれが嬉しい。』
「そうだな。」
咲夜の言葉に白哉も彼らの方を見てそう言った。


『なんだか、やっと帰ってきた感じだ。』
「そうなのか?」
『あぁ。なんだか、バタバタしていて、落ち着かなかったから。』
「そうだな。」


『それに・・・。』
「それに?」
『白哉が隣に居る。』
「当然ではないか。」
白哉は不思議そうに答える。


白哉が、私の隣に居ることは、当然なのか。
そうか。
そう思ってくれているのか。
『ふふふ。そうだな。・・・ただいま、白哉。』
「突然どうしたのだ。」


『そういえば、言ってなかったなぁと。戻ってきてから一年近くたつけれど。』
「・・・そうだな。」
『だから、ただいま。』
咲夜はそう言って笑顔で白哉を見上げる。


「あぁ、おかえり。」
白哉もまた、微笑んでそう返したのだった。
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