蒼の瞳、紅の瞳
■ 32.密やかな愛情

「いいのかい?放っておいて。」
乱菊たちを追いかけて行った咲夜を気にすることなく静かに酒を呑んでいる白哉に、京楽が問うた。
「構わぬ。これで彼奴らが大人しくなるなら、安いものだ。」


「ははは。なんだ。さっきの顔はわざと見せたのか。」
浮竹が笑いながらそう言う。
「兄らも彼奴らの目的を知っていて黙っていたのだろう?それに・・・咲夜は色々と自覚が足らぬのだ。」
「あはは。確かにねぇ。でもそれが咲ちゃんだよねぇ。」
「結婚しても苦労するな。」


「・・・そのようだな。目を離すとすぐに居なくなってしまう。」
「心配で仕方ない訳だ?」
京楽がニヤニヤしながらそう言った。
「・・・当然だ。咲夜は私のものだ。」
白哉は少々拗ねたようにそう言った。


「まぁ、そう心配することはないさ。漣は、どこへ行っても、ちゃんとお前のところに帰ってくるだろう。あいつが姿を消していた間、色々と気にしていたのは白哉だけじゃないみたいだしな。」
「・・・そうなのか?」
浮竹の言葉に白哉は意外そうに聞いた。


「あぁ。この間、天音殿に話を聞いたんだ。隠れていた間、何度か漣家に帰ってきていたらしい。」
「それは・・・知っているが。」


「帰ってくるたびに、白哉のことを聞いてきたそうだ。お前が隊長になった時なんか、自分のことのように嬉しそうだったと言っていた。蒼純殿や緋真殿が亡くなった時も、朽木の処刑が決まった時も「白哉は大丈夫だろうか」と、ずっと心配していたらしい。」
「・・・そうだったのか。」


「それから・・・。」
「なんだ?」
「お前が緋真殿との結婚をするときに、天音殿が後押しをしてくれたのだろう?」
「あぁ。天音殿が説得してくれたおかげで私は緋真と一緒になることができたようなものだ。」


「あれもなぁ、実は漣が頼んだらしいぞ。もちろん、天音殿もそう思って居たから賛同したわけだが。「白哉には幸せになってほしい。それに、政略結婚をしなければならないほど、白哉は無能じゃないし、流魂街のものと結婚したからと言って朽木家の品性が衰えるわけではないだろう。血筋など問題ではない。どんなに高貴な血が流れていても性根の腐った奴らは幾らでも居るじゃないか。」ってね。」


「そう、だったのか。あれは咲夜が・・・。」
「ふふん。愛されてるねぇ。」
京楽が茶化すように言った。
「当然だ。」
白哉は照れていることを隠すように、ぶっきらぼうにそう言った。


白哉たちが三人で酒を呑んでいると、咲夜がようやく帰ってきた。
「漣。逃げ切られたのか?」
とぼとぼと歩いてきた咲夜に浮竹が声を掛ける。
『どうしよう・・・。白哉、ごめん。』


写真を取り返すことが出来なかったらしい。
咲夜はシュンとして、白哉の隣に座った。
「構わぬ。」
『だって!写真集にするって言っていたぞ?いいのか?』
「そんなもの、どうとでもなる。」
『そうなのか?』
「あぁ。」


『そういうことはもう少し早く言ってくれよ・・・。』
咲夜は脱力したように、白哉にもたれかかった。
「言う前に行ってしまったではないか。」
『それは・・・そうだけれども。』
咲夜は眠そうだ。


「眠いのか?」
『いや、結構呑んだ上に走ったから酔いが回ったみたいだ。』
「帰るか?」
『嫌だ。』
「だだをこねるな。」


『嫌だ!・・・もう少し、この空気を味わって居たいんだ。』
「仕方のない奴だ。」
白哉はそう言って咲夜の頭を撫でる。
すると、咲夜は気持ちがいいのか、その手にすり寄ったのだった。
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