蒼の瞳、紅の瞳
■ 14.緑の男

『失礼するよ。』
咲夜が医務室に入ると、そこには人の気配が無かった。
『あれ?誰も居ないのか?』
「漣先生・・・?」
咲夜がキョロキョロしていると、後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこには医師の草薙睦月がいた。


深緑の真っ直ぐな髪に、同じ色の瞳。
そして銀縁の眼鏡をかけている。
紳士的な容姿とは裏腹に腹黒い男でもある。
医術の腕は一流であるし、彼が腹黒さを見せるのは信頼の証であることはそれなりに一緒に居れば解るのだが。


『やぁ、まだ君だったか。久しぶりだな、睦月。』
「本当に漣先生?」
そして睦月はポカンとした顔をしてそう言った。
『そうだが?』
「あの二十年ほど前に突然辞めた?」
『あの時は悪かったな。』
咲夜は苦笑いで答える。
「今まで何をしていたんですか・・・。」


『最近死神になってな。』
「そういうことは早く教えてくださいよ・・・。僕だって一応心配していたんですよ。」
『ははは。一応か。悪いな。いろいろあったものだから。っと、そうだ、この子に着替えを貸してやってくれ。ずぶ濡れなんだ。』
そういって、ずぶ濡れの少年を睦月に見せる。


「・・・またか。」
睦月はそう呟くと、着替えを少年に渡した。
「ほら、カーテンの向こうで着替えてきなさい。」
「はい。・・・いつもすみません。」
少年は申し訳なさそうに答えるとカーテンの向こうへと消える。


『あの子は?』
カーテンの向こうに姿を消した少年を見ながら、咲夜は問うた。
「貴族のガキどもに絡まれている奴だ。名前は南雲蓮。全く、彼奴らも毎度毎度くだらないことをしてくれる。」


さっきまでは優しげな口調だったのに、ずいぶんと乱暴な口調に変わった。
相変わらずだな。
咲夜は内心苦笑した。


『あぁ、いつものやつか。』
「そうだ。流魂街出身の奴が自分たちよりも上に居るのが気に入らないんだろ。」
『へぇ、あの子優秀なのか。』
「あぁ。入学してすぐに飛び級して今は六回生だ。日番谷以来の神童だと騒がれている。」
『ほう。』


「だが、あの様子でな。優しすぎるんだ。相手の方が格下だが、絶対に手を出すことはない。貴族が相手だということもあるのだろうが。」
『そうか。』
「飛び級したせいか、友人も居なくてな。よくここに来るんだ。」


『へぇ。君が相手をしているわけか。珍しいじゃないか。お前はそんなに優しい奴だったのか。』
「うるさい。俺だって好きでやっているわけじゃない。あいつの担任に泣きつかれたんだ。俺のキャラ的に断れなくてな。仕方なくだ。」
彼はうんざりしたように言った。


『君、もうその素顔ばらせばいいんじゃないか?紳士的な振る舞いをする君を見ていると、私は何かこう、落ち着かないんだが。』
「今さらだろ。変える気はない。面倒事もあるが、この方がここでの人間関係は円滑だ。大体、お前はなんでここに居るんだ?」


『あぁ、そうだった。今日の特別講師だよ。』
「は?今日は確か、隊長が呼ばれているんじゃないのか?」
『そうだな。』
「お前が隊長とか言わないよな?」
睦月は怪訝な顔で咲夜を見た。


『ははは。まさか。代理だよ。呼ばれた隊長は「行かぬ。」とさ。だから、彼の代わりに来たのさ。まぁ、黙ってきたから後で怒られるかもしれないが。』
「・・・お前それ、大丈夫なのか?」
『ふふふ。隊長格が相手でも後れを取る私ではない。』
「お前も大概だよな。」
『はは。お互い様だろ。』
「違いない。」
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