蒼の瞳、紅の瞳
■ 4.答えに納得する

『・・・抱きしめられた。』
ぽつりと呟かれた言葉に、イヅルは一瞬自分の耳を疑う。


ん?
抱きしめられた!?
この咲夜さんが!?
大人しく?


「えぇと、それで返事はしたんですか?」
『そんなこと考えたこともないって言ったら、考えてくれと言われた。』
「それで?咲夜さんはどう思ったんですか?」
『・・・嫌ではなかった。ただ、知らない人になってしまったようで、怖かった。』
ということは、咲夜さんに近い人に告白されたのだろうか。


「抱きしめられたことも?」
『それは驚いたが、温かかった。』
「それだけですか?うーん・・・安心したとか、脈が速くなったとかは?」
『安心は、した。脈は・・・わからない。だが、心臓が止まるかと思った。あの瞳を見るとうまく体が動かなくなってしまって。』


「そうなるのは、その人に対してだけですか?例えば、僕に対してはどうです?」
『君に抱きしめられたことはないからわからない。』
「じゃあ、抱きしめてみてもいいですか?」
『あぁ。そうしてみてくれ。』


ふわり、とイヅルの腕が背中に回される。
「どうですか?」
耳元でイヅルの声が聞こえる。
『・・・嫌では、ない。でも、違う。イヅルは、怖くない。』
「そうですか。」
その言葉とともに腕から解放される。


「では、質問です。その人は咲夜さんにとって大切ですか?」
『あぁ。とても。』
「その人が突然いなくなってしまったらどう思いますか?」
『心配だ。探しに行くだろう。』


「元気が無かったら?」
『そばに居る。』
「泣いていたら?」
『あれが他人に泣く姿を見せたのは生まれたときと、私の腕の中でだけだ。人前で簡単に涙を流すような奴じゃないんだ。』


そうだ。
白哉はきっと、緋真さんが亡くなった時も一人で泣いたのだ。
いつも、涙をこらえて一人で耐えようとする。
「その人はどんな人ですか?」


『優しい。私をよく見ていてくれる。心配性だ。仏頂面で不器用だが。』
私のために怒ってくれた。
「その人が他の女性を抱きしめていたらどう思いますか?」
『・・・なんか、この辺がもやもやする。』
咲夜は自分の胸のあたりに手を置きながら言う。


「じゃあ、自分がもう一度抱きしめられたとしたら?」
『・・・。』
咲夜はそれを想像して、自分の顔が熱くなるのを感じた。
「ふふふ。そうですか。咲夜さん、顔が赤いですよ?」
イヅルが楽しそうなのは何故なのだろうか。


『うるさい。イヅルのばか。』
「さて、まだ解りませんか?」
『え?』
「・・・。相変わらず鈍いですね。咲夜さん、それはもう、好きな証拠ですよ。」
『すき?』
「はい。そうです。」


イヅルには相手が誰であるか、見当がついていた。
朽木隊長も、大変な人を好きになったものだ。
苦労が絶えないだろうに。
『好き・・・。そうか。これが、「好き」なんだな。』


咲夜さんはやっと納得して、自分の気持ちを受け入れたようだ。
まさか、咲夜さんの恋愛相談に乗る日がくるなんて。
イヅルは内心で苦笑した。
と同時に、こちらに近づいてくる霊圧に気付く。
・・・朽木隊長だ。


イヅルは逡巡する。
この二人、すぐにくっつけないと色々と勘違いをして面倒なことになりそうだ。
ということで、早々にくっつけてしまおう。
早々に答えを導き出して、イヅルは楽しげに口を開くのだった。
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