/ コーヒーブレイク

「ご注文は」
「すいません、アメリカンを・・・って」

痛恨のミス。
そういえば、ここポアロには彼がいることをすっかり忘れていた。
一度この店で飲んだアメリカンの味が忘れられず、再び訪れてしまった。

じっとりと送られた彼の視線に耐えきれず、キャメルはメニュー表で視線を遮ると「アメリカンを一つ」と小さく呟いた。

「のんきなものですね。FBIは相当お暇なようだ」

嫌味の一つや二つ吐き捨ててキッチンへと戻る安室に、キャメルはため息をつくとメールに目を通す。

そんな二人の姿を、名前は不思議そうに見ていた。

『知り合いですか?』
「さぁ?どうでしょう」

曖昧な返答の安室に、名前は首を傾げてみせたが、きっと苦手な人なんだろうと一人適当に解釈するとキッチンからアメリカンを受け取った。
安室さんにもあんな敵意を丸出しにするくらい苦手な人がいるんだ、と意外な一面を知り、どこかほっとしていた。

『私、代わりに持っていきますよ』

そう言って、安室の代わりにキャメルが座るテーブルへと近づくと、軽く会釈をしてからゆっくりコーヒーを差し出した。

『お待たせしました、アメリカンです』

こちらを見て分かりやすくホッとした表情をするキャメルに、名前はくすりと悪う。

「今日のアメリカンは、特に美味しいです」

コーヒーのいい香り、心地よいBGM、過ごしやすく管理された空間、そして何より素晴らしい店員。
これぞ、最高のティータイムだ。

『ありがとうございます!アメリカン、人気なんですよ』

そう言って柔らかい表情を見せる名前に、仕事の疲れも吹っ飛びそうになるのを覚えながら再びコーヒーを一口飲み込む。
この一時のために頑張ってきたんだ、とキャメルはうっとりしていた。

『また、いつでも来てくださいね』
「えぇ、また・・・」

なんて、笑いながら他愛ない話をしていると、

「彼は多忙な身でしょうから。難しいでしょうねぇ」

と、顔を見ずともどんな表情をしているのか分かる程の声色で遮る安室に、キャメルは再び顔を引き攣らせた。

「わざわざこんな所まで来て優雅にコーヒーブレイクとはいいご身分で。それとも、他に何か理由でも?」

安室のどす黒いオーラと針のような言葉に、キャメルは携帯をポケットにしまうと勢いよく立ち上がった。

「で、では、自分はそろそろ」

コーヒーを飲み干し、「ごちそうさまでした」と会計を済ませると、急ぎ足で店外へと出ていった。

カップを片付ける安室に、名前は内心やれやれと首を振る。

『もう!他に言い方は無いんですか?』

嫌いな人とはいえ、相手はお客さんだ。

「ライバルに優しくする義理はありませんから」
『ラ、ライバル?』

なんの事だ?と首を傾げているのを見て、安室はハァと聞こえないくらいの息をつくと、作業を止めて向き合った。

仕事でもプライベートでも、彼らは僕の宿敵であり、ライバルだ。

「貴女も鈍いですね。名前さんが他の男性と楽しそうにお喋りしているのが気に入らないと言ってるんだ。よりによってFBIなんかと・・・」

と、ぶつぶつ呟く安室の姿に、名前は目をぱちぱち瞬かせると次第に嬉しそうに笑った。

「笑い事じゃないぞ」
『っはいーはい』



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