2021/08/30



長谷部ちゃんは石鹸の香りがする。白く滑らかな肌に顔を寄せると清潔な香りがして、安心してそのまま身体を任せるように雪崩れた。頭を撫でる感触。衣擦れの音と長谷部ちゃんのとくとくと少し早い心音が耳を澄ますと聞こえる。長谷部ちゃんは石鹸の香りがする。全部赦してくれそうな香りがする。

「主、そろそろ寝ましょう」

不意に上から声が降ってきた。顔を上げてみれば長谷部ちゃんが柔らかな微笑みをたたえて私を見ている。眠れば夜が終わって朝が来れば長谷部ちゃんと離れることにしまう。嫌だ、と子供のように無言で首を横に振って再び顔を沈める。

「俺がいればきっと朝だって恐れることなんて無いでしょう?」

髪に触らる指の感覚が心地好い。違う、違うんだ。朝は怖い。でもそうじゃない。長谷部ちゃんが目の前から消えるのが怖い。君は朝になれば私の前から消えるじゃないか。

「……ほら、寝ないとしても目を閉じて」

少し困った顔をしてる、きっと。優しい声色が気持ち良いのにそんな感情にさせているのがひどく罪悪感を抱いてしまう。身体を起こして布団へ潜り込んでしまえば長谷部ちゃんも黙ったまま隣へ身体を横たえた。

「主、今だけならせめて、好きなだけこうしていましょう」

冷えた二人の隙間が埋まり、じんわりと触れあう場所から熱が伝わる。


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テーマ「人外ファンタジー」
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