照らすのではなく
眠らない島、不夜島。こんなのあたし達への当て付け以外の何物でもないよね、と鼻で笑ってやったのはいつだったか。
今では少し考え方が変わって、これがあたし達にとって丁度良いのだと思うようになった。
「ねえカク、美味しいお茶買ったから一緒に飲もうよ」
「ほう、何の茶じゃ?」
「黒豆茶」
「よし、乗った」
後で煎餅を持って来よう、と言ったカクの背中を見送る。ひらひらと振られた手は肌色。なのに一瞬紅が見えた気がしたのは、きっと網膜が血の色とあたし達とをイコールで結んでしまったから。
少し体がだるくて溜め息を吐いた。
「カクが戻る前に急須もらってこなきゃ」
あとはお湯を沸かして、湯飲みを用意して、茶葉を缶に詰め替えて。
指を折りながら確かめるように何度か呟く。念のために“お茶の用意しに行ってくる”と書いたメモを机の上に置いて部屋を出た。
廊下は窓から差す光に溢れていて、それが目に沁みて痛かった。ぐっと目を閉じて、瞼越しに刺す光に耐える。
「この島は、どれだけ居ても慣れんの」
不意に、瞼以外の何かが光を遮った。目頭が暖かい。
「この島は、何も隠しちゃくれないからね」
あたしの瞼に乗せられたのは、たぶんカクの手の平だ。頭の後ろ、少し上の方からカクの声が聞こえて、がさりと袋が鳴るような音が聞こえた。
いくらあたし達が目を閉じようと、手の平で顔を覆うと、闇に隠れることは出来ない。
「可笑しな話じゃ。わしらが光の中で生きるなんて」
「そりゃあたしも最初はそう思ったけどさ、今はもう違うでしょ?」
「…なんじゃ、気付いとったんか」
「嫌でも気付くって」
この島は眠らない、不夜島。
闇はなく、光だけの島。
照らすのではなく
逃げも隠れも出来ないこの場所で
あれはただ、私達を見張っている