斜め後ろの転校生



俺の斜め後ろの席に転校生が来た。男、それもかなりのイケメンだ。

このクラスは男子の方が人数が多いので、必然的に男子同士で並ぶ席ができる。窓側一番後ろの二席がそれ。ちなみに俺はそこの女子の列の席。プリントを回される度になんでお前なんだよって顔をされるので、心が折れそうです。

…いや、それも仕方ないのかもしれない。なんたって俺の隣はあのサッカー部のキングオブ・ゴールキーパー源田で、更に斜め後ろはハーフの帰国子女転校生ときたもんだ。うん。頼むから誰かこの席替わってくれ。


(無理無理無理!劣等感で死ねる…!)


なんか体の左側がいやに眩しい。ただでさえサッカー部ってなんかこう…絡みにくいのに。転校生が来てから鬼道と佐久間まで集まるようになって、もうたまったもんじゃない。



そんな息苦しい日々(と言ってもまだ四、五日だけど)を送り、昼休みになってさて飯にするかと欠伸を噛み殺した時のこと。

いつものように弁当片手にやってきた鬼道と佐久間。普段ならここで源田と転校生の席をくっ付けるんだが、今日は違った。


「悪い、サッカー部でミーティングがあるから一緒に食べられない」
「え!?」
「俺たち三人ともサッカー部。お前は帰宅部。4引く3は?」
「1…」
「はいよくできました。適当に誰かと食えよ」
「佐久間冷たい!」
「ははは!なんとでも言え!こっちは久しぶりに静かな飯が食えて嬉しいぜ!」
「なるべく早く戻って来るから、な?」
「Nooo...」


佐久間ひでえ。源田やさしい。女子がキャーキャー騒ぐのも分かる気がする。鬼道は…ゴーグルしてるから何考えてんのかよくわからん。

俺はさも何も聞いてませんよーって顔で教科書を片付ける。しかし、あることに気がついてしまった。女子たちが静かに息を殺して聞き耳を立てているのだ。

お互いに出方を見ているのか、牽制し合っているのか、はたまた恥ずかしいだけなのか。誰も彼らに声を掛ける様子はない。いや、迂闊に出たら殺られる、みたいな感じなのかも。お前らどこぞのハンターか。


それからサッカー部三人が教室を出て行って、俺も友達のところに行こうかと席を立った。…そこまでは良かったはずなんだけどなあ。


「今日、名字も一緒でいい?」
「あ?ああ…別にいいけど…」
「わりぃ、さんきゅ」
「Thanks!佐久間達いないからどうしようかと思った!細河ありがと!」
「いやいや」


どういうわけか、俺は転校生を昼飯に誘ってしまった。というのも、何の気なしにチラッと見たらすごーく寂しそうな顔をしていて放っておけなくなってしまったのだよ。


(だからそんな顔でこっち見んなって…)


こいつらもプライドがあるから表立って騒ぎはしないけど、目が明らかに説明しろって言ってる。うん、後で説明します。


「…まあいいや、さっさと食おうぜ。昼休みなくなる」
「イタダキマス!」
「早っ!つーかそんな元気のいい“いただきます”って久々に聞いた」
「ん、お母さんがアメリカにはなかったからステキって言ってた」
「へー。てことはお父さんが日本人?」
「うん。あんまり似てないんだ」


俺ともう一人の友達、それと名字は弁当。もう二人の友達は買い弁。それぞれの昼食の包みを開けながら、意外にも会話はつかえることなく続いた。


「アメリカっていただきますないの?」
「うん。美味しそうだね、とか言ったりはするけどいただきますと同じ意味の言葉はないよ」
「そういや“ヤミー”くらいしか教わってねえか」
「あと“デリシャス”な」
「Yammy!Delicious!It tastes great!」
「うお、発音が全然ちげー」


そもそも、アメリカからの転校生という時点で聞きたいことは沢山あったんだ。それがあのサッカー部と一緒にいるもんだから中々話しかけられなかっただけで、話し始めてしまえば気まずさなんてどこにもない。これならもっと早く話かけるんだったなあ。


名字と一緒に食べた昼飯は思っていた以上に楽しかった。最初は気まずそうにしてた他の三人も、その内笑って、冗談を言って、携帯のアドレスを交換するくらいには仲良くなっていた。

そして昼休みの終わり頃、戻ってきた鬼道達が名字に気付き、


「悪い、名字が何か迷惑かけたりしなかったか?」


なんて聞いてきたりして。心当たりのない名字が佐久間に尋ねると日頃の行いが悪いからだ、と頭を叩かれていて。その横でありがとう細河、と笑う源田がいたりもして。

あれ?なんだ、サッカー部って意外と普通じゃないか、なんて思ったある日の昼休みでした。




斜め後ろの転校生


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