スモーカーさん誕生日3
(スモーカー視点)
一つ、二つ、三つと石を積み上げて、七つ目の石を乗せようとした瞬間、派手な音を立てて扉が開いた。その拍子に積み上げた石が崩れたわけだが、それらが机の上に転がるより早く、何かが俺に向かって突進してきた。
それが“何”かなんて、確認しなくとも分かる。
「名前。終わったのか?」
俺の腹にしがみついたそれは、声で答える代わりに何度も頷く。…ああ、こいつの甘ったれた性格にも参ったもんだ。
「バレンタインの礼は?」
「…午前中の内に配ってきた」
「そうか」
へばり付いたまま離れない名前。帽子の上からその頭を一撫でして引き剥がす。少し不服そうな顔をしたが、俺が支度しろと一言言えば嬉々として部屋を出て行った。
残された部屋で溜まった紫煙を逃がそうと窓を開ける。陽は少し前に沈んだところだ。
…まあ、あいつにしては頑張った方だろう。
たしぎ達にも手伝うなと釘を刺し、今まで溜めていた分の書類も回し、普段はやらない指揮系統も任せた。それをこなすだけの力があるくせに…どうにもあいつはサボリ癖が抜けなくていけねえな。
壁に掛けていたジャケットに袖を通し、机の上に転がった石を適当に隅に寄せて窓を閉める。すぐにバタバタと廊下を走る音が聞こえてきて、いつになく機嫌の良い名前が顔を覗かせた。
「スモーカーさん!支度出来ました!」
「たしぎ達にはちゃんと声掛けてきたんだろうな?」
「もちろんすよ!」
早く帰ろうと急かす名前の頭を、少し乱暴に撫でて部屋を出る。途中すれ違う奴らにも笑顔で返す名前に溜め息が出たのは…仕方ねえだろう。
ぼんやりとしながら歩いていたら、いつの間にか俺の前に出た名前がじっとこちらを見ていた。こいつは帽子と口布とで顔をほとんど隠しちゃいるが、その分目は人の倍以上に感情を映す。
…ったく、なんでてめえはそんなに楽しそうなんだ。
「スモーカーさん!」
「ああ?」
「お誕生日、おめでとうございます!」
Happy Birthday!
この年になって祝われんのも、悪くねえ