スモーカーさん誕生日2
机の上の書類の山はいつもよりずっと少ない。それでも多いのに変わりはない書類の一つ一つにきちんと目を通し、サインなり必要事項なりを記入していく。
「名前少尉、あまり根を詰めてもよくありませんよ?」
「あ、マシカクさん」
す、と机の上に置かれたのは書類ではなく俺専用のマグカップ。中身はミルクたっぷりのコーヒーで、俺はありがとうと言ってペンを置いた。だけど、それを持って来てくれたマシカクさんは困ったように眉尻を下げる。
「…あの、大丈夫なんですか?」
「ダメっすね。キツイっす」
「じゃあ無理をなさらずに…」
「でも約束破るわけにもいかないから…踏ん張りますよ」
鼻の上に引っ掛けていた口布を顎の下まで下ろし、マグカップに口を付ける。甘くて美味しい。
左手にはコーヒー、右手にはまたすぐにペンを持ち直した。いくら減ったとは言え、普段から溜めていた分の書類もあるからな…。ちょっとくらい無理でもしないと終わりそうにない。
休まずせっせとペンを動かし始めた俺を見て、マシカクさんは小さく苦笑する。
「この時間に名前少尉が机に向かっておられるのは、なんだか妙な感じがします」
「はは、返す言葉もないっす…」
ちらりと見た時計は二時を指していて。普段なら食後の昼寝の眠気覚ましにスモーカーさんの執務室へ遊びに行く時間。今だってすごく会いに行きたい。…だけど、今日だけはダメだ。
「仕事を終わらせねえ内は、俺の所に来るんじゃねえ」
今朝のスモーカーさんの言葉を思い出して溜め息を一つ。今朝のその場に丁度居合わせたマシカクさんは、また困ったように笑っていた。
…助けてくれないのは、日頃の行いが悪いからなんすかね…。
猫が頑張る日
それは一年に一度だけ