ハロウィン4



(フランキー視点)


「と、いう訳だからお前らも強制参加な」
「せめて何が“と、いう訳”なのか説明しろって」
「私も恐いものは苦手でして…」
「「一番それっぽい奴が何言ってやがる」」


さて、どうにも今日の名前に落ち着きがねえことは分かってたつもりだ。それに少し前に倉庫の方から聞こえた悲鳴で、落ち着きがなかった理由も分かった。だけどそこは一応、確認取ろうぜ?何にもなしにいきなりそんな話振られたって普通は分かんねえだろが。

まあ、ハロウィンに参加すること自体に異議はねえけどな!(ガイコツは違うみてえだが)


「で、俺達は何をすれば良いんだ?」
「フランキーはぜひ、これを付けてくれ」
「あん?」


そう言って名前に渡されたのは、耳当てにネジがくっ付いたような物。いまいちピンと来なくて首を捻る。こんなん付けてるお化けなんていたか?


「良いから黙って付けろって」
「どわ!?いきなり何しやがる!」


言うが早いか、名前は一度は渡したその耳当てみたいなもんを引ったくって、そのまま俺の頭へと押し付けた。お、俺の自慢のリーゼントが…!


「はは!やっぱり似合うな、フランキー。流石だ」
「ああ、なるほど。そういうことですか」


満足げに頷く名前と納得したように手を打つガイコツにまた首を捻る。何が流石なんだかさっぱりだぜ。

そうやっていつまでも頭の上に疑問符を浮かべている俺を見かねたのか、名前が懐から手鏡を取り出してこちらに向けてきた。そこに映った自分の姿を見て俺もようやく納得。


「なるほど、フランケンシュタインか」
「そう。フランキーにはこれしかねえだろと思ってな」
「でも、まだフランケンシュタインにしては陽気ですね」


私はこの方が恐くなくて良いですけど、と続けるガイコツ。名前はその横でならば、と言ってまた何かを取り出した。その右手にはマジックペン、左手にはスーツ一式が掲げられている。…準備の良い奴だな。


「顔に縫い目描いてスーツでも着ればそれらしくなんだろ」
「下は穿かねえからな」
「変態だな」
「よせやい、照れるじゃねえか!」
「…まあ良いさ」


ふう、と一つ溜め息を漏らした名前からスーツ一式(ズボンは除く)を受け取って袖を通す。着終わったところで、背伸びをする名前に顔の縫い目を描いてもらって一先ず完成。


「さて、フランキーはこれで良いがブルックはどうするかな」
「これ以上いじるとなると難しいしな」
「あの、やっぱり私恐いのは…」
「遠慮したいんだろ?だからこそ悩む」


生ける骸骨に恐くない仮装をさせるのは逆に骨が折れる。だからと言って、何の仮装もさせないのは面白くねえし、なんとなく後味悪ぃだろ?仲間外れみたいで。それにガイコツの希望は“恐くないもの”ときたもんだ。…相当難しい。


「あ、ところで名前さんはどのような仮装をされるのでしょうか?」
「ん?俺か?…俺も特に何かする必要はねえと思うんだがな」


ガイコツの質問に答えた名前は、話しながらもその姿を変えていく。ネコネコの実、モデルチーターの獣人型だ。ホントにこの船に居る連中は仮装なんかしなくとも十分化け物揃いだよな。…嫌、別に悪い意味で言ってるんじゃねえからな?それだけ人間離れして強いって意味だ。


「でも、それだけでは味気ないですよね」
「おう。俺もそう思ってこいつを用意した」


そう言って名前がまたどこか(あ、後ろにデカイ袋があったのか)から取り出したのは、大きなジャックランタンだった。吊り上がる目と口の形に皮がくり抜かれているのは分かる。が、なぜか両の目元から鼻筋を沿うような線もくり抜かれている。それに頭一つ余裕で入りそうなこの大きさは…。


「…それ、被るつもりか?」
「ご名答。サンジに俺用に作らせたんだ」


にやりと口の端を吊り上げて笑った名前は、そのまま手に持ったジャックランタンに頭を突っ込んだ。くり抜かれた部分から見える瞳は明らかに人間のものではなくて、それが僅かに恐怖心を煽る。口もまた然り。だがまあ、なんか妙に似合ってるんだな、これが。


「お似合いですよ、名前さん」
「当然だ。他のと違ってチーター仕様になってるからな」
「どこら辺が?」
「ティアドロップライン」
「「なるほど」」


妙にしっくりきた理由はこれか。俺はガイコツと一緒になって頷いた。

さあて、これで俺と名前の仮装は終わった訳だから、あとはガイコツの仮装だな!


「あー…。あえて顔を隠しちまうってのはどうだ?」
「それもありだな。…あ」
「ん?どうした、なんか思い付いたか?」
「ああ、その髪を活かそうじゃねえか」
「私の髪、ですか…」


ガイコツにとってこのイカした髪は友との約束を果たすためにある(くっ…思い出したらまた目頭が熱くなってきやがったぜ…)。だからだろう、ガイコツは…まあ顔色とかそういうのは分かんねえが、不安そうな顔をした。…たぶん。

もちろん名前もそのことは十分承知しているはずだが、珍しく鼻歌なんか歌いながらさっきのデカイ袋を漁ってるもんだから妙に不安になる。

ま、まさかハサミでも出して刈ろうなんて言うんじゃねえだろなあ!?


「あったあった」
「ん、んん?」
「ブルックにはこれしかねえだろ」
「飴…ですよね、これ?」


そう、名前が取り出したのは何の変哲もない棒付きキャンディ。自信満々に出したとこ悪いが、これでどうやって仮装するっていうんだ?


「これをだな…」
「これを?」

「頭にいっぱい挿せば良い」
「はあ!?」「はい!?」


俺よりも背の高いガイコツによじ登り、両手いっぱいに持った棒付きキャンディを問答無用で挿していく名前。ガイコツも相当動揺しているが、振り落としたりする訳でもないので結局はされるがままだ。

始めは呆然としていた俺も、だんだんと量が増えていく飴に吹き出しそうになる。それをなんとか手で抑え込み、飴を挿し終わったらしい名前と並んでガイコツを見た。


「…ぶっ!」
「っはは!やっぱり俺の見立ては完璧だ!」
「んははは!!最高だぜ名前!たしかにこれなら恐くねえ!」
「あ、あのー…私いったいどんな格好になってるんでしょうか…?」
「か、鏡見てみろよ!最っ高にスーパーな格好だぜ?」


ただでさえボリュームの多い頭が、無数に挿された飴のせいで更に一回り大きくなったように見える。鏡を見たブルックも、ヨホホ、たしかにこれなら笑ってしまいますねえなんて言ってやがる。なかなか間抜けな格好だ。


「ふふん、その頭にはもう一つメリットがあるんだぜ?」
「おや、それは何でしょうか?」
「お菓子くれっつわれたらそいつを渡せば良い」
「ヨホホ!それは素晴らしいアイディア!」


だろう?なんて言っておどけたように首を傾げた名前だが、頭に被ったカボチャの重みで体ごと傾いていってしまった。はは!ざまあねえな!




カボチャ頭とロリポップ

アウ!間抜けで最高なお化けじゃねえか!



ロリポップ:棒付きキャンディのこと
title:207β


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