会計委員



障子の向こうはまだ暗い。虫の音に混じって算盤を弾く音が静かに響く。それに向けられる目玉は全部で六つだが、どれもひどく血走っていた。

「今日で三日目今日で三日目今日で三日目今日で三日目今日で三」
「だああああ!少しは黙っとれんのか名前!!」
「し、潮江先輩!早く終わらせてください!もう、腕が限界です…!」
「早くお布団で寝かせないと団蔵が死ぬううううう!!」
「だ ま れ!!」
「へぶう!!」

潮江先輩の十キロ算盤アッパーが顎に決まって俺の体と鼻血とがまるで虹のような美しい放物線を描いた。どうも、五年は組、加藤団蔵のカッコいいお兄ちゃんこと名前です(俺を押さえていた三木は算盤アッパーの前に安全圏へ避難しました)。
今俺達は例の如く委員会活動の真っ最中だ。ちなみに今日で三徹。同じクラスの保健委員、安見菊治郎に『人は睡眠をとらないと本当に死んでしまうからね』と、まるで死者への手向けであるかのような笑みを向けられたのは記憶に新しい。


「ちったぁ目が覚めたか、名前」

そして、この目の下にどえらい隈をこさえた男が我らが委員長、潮江文次郎先輩である。よく俺のことを加減なしに十キロ算盤でぶっ飛ばしてくるちょっと頭のアレな先輩だ。団蔵の目の下の隈がなくならなかったら俺はこの先輩の算盤をバラしておはようからおやすみまで印地打ちでしつこく狙ってやろうと心に決めている。

「名前先輩!終わり間際になってから潮江先輩に喧嘩を売るのはやめてください!!」

こっちの赤目でぷんすかしてるのが一つ下の後輩、田村三木ヱ門だ。彼がサラストに入れないのはひとえに潮江先輩のせいである。美容、健康に夜更かし寝不足過度のストレスは大敵だからな。可哀想に。三木と同学年のタカ丸さんが滝夜叉丸にばかり櫛を入れたがるのを俺は知っている。ちなみに俺は見向きもされなかった。ちょっと寂しい。
他にも会計委員はいるが、残念ながら皆既に生きる屍と化しているので右から順に左門、左吉、俺の可愛い弟はあと団蔵とだけ説明させていただこう。ああ、顧問はなんか…あ、あ、あー…油先生?だった気がする。うちの団蔵を鼻で笑いやがったので奴は敵だ。卒業したら報復する。

「…にしても、お前も団蔵もやはり兄弟だな」
「え!?何それすごい誉め言葉じゃないですか…!!」
「バカタレ!二人そろって字が汚ないと言っているんだ!」
「団蔵とおそろい!何の問題もありません!」
「大アリだボケ!!お前らのせいでいつも最後に余計な時間を取られる!!」
「…うちのゴエモン呼んで来ます?」
「お前ら兄弟の字は暗号と同じレベルか…」
「土井先生も読めますがね!」
「常人に読める字を書け…!!」

失礼な。俺も団蔵も至って普通なのに。あ、土井先生も。潮江先輩のように夜中にギンギンし始めるような趣味はないし、火器を撫で回しながらうっとり…なんてこともしないのに。なあ団蔵?

「…ん、にいちゃ…」
「ちょっと待てここに天使がいる。いよいよ俺にもお迎えが来たらしい。こんな天使が迎えに来てくれるんならもう三回くらいは三途の川観光行っとくんだった。ああ、菊治郎が寝ないと死ぬって言ってたのは本当だったんだなあ…」
「俺が悪かった。だからおもむろに団蔵を拝み始めるのをやめろ。お前の異様な気配で左門と左吉が目を覚ました」
「拝むのがダメなら祀り上げるぞ…!!」
「祀り上げないでください!」

まあ、そんなこんなで会計委員会の夜は更けていくのだった。結局どうやって終わらせたのかって?なんか団蔵のことをあーだこーだ言ってる油先生に押し付けました。

カメムシと一緒に。



五年は組