時を昇りて気づくこと
「学園長、これで最後です」
「おお、ご苦労じゃった。して、塩梅はどうかの?」
「それが、妙なことに……」
棗さんが忍術学園にやって来てから一週間が経ちました。生徒は各々が集めた情報をまとめて担任に提出。担任の先生はそれをさらにまとめて学園長へと提出されるそうです。そして発表された成績は、とても奇妙なものでした。
「一年は組が一番じゃと……?」
先輩方は皆首を傾げました。何を聞いても答えないあの女から、あの阿呆の一年は組がいったい何を聞き出せたというのかと。
一年は組の生徒達は皆首を傾げました。何を聞いても答えてくれるあの人から、先輩達は何も聞き出せなかったのだろうかと。
恐らく、その答えを知っているのは私だけでしょう。
「あたし、勘にだけは自信があるんだ。特に勝負事と悪いものに関しては」
厚みのある絵札を器用に切りながら、棗さんはにやりと口の端を持ち上げました。
「そうでしょうね。学園外の人で喜八郎の蛸壺に落ちない方は初めてです」
私は配られた七枚の手札を眺め、隣でふて腐れる喜八郎の頭をやんわりと撫でました。彼はまだルールを覚えられていないので、私の手札を覗くだけです。
「絶対に落とします」
「やれるもんならやってみろ!」
「む。黒彦先輩、こいつ落としたら褒めてくれますか?」
「その前にきっと私が落ちてしまうよ」
「ならいいです」
私にとってはよくないのですが、と苦笑い。けれど喜八郎の機嫌が少しばかり治ったようなので、これ以上は何も言いません。
最近はこの三人で過ごすことが多くなりました。棗さんはおばちゃんの手伝いをしたり、先生方の着物を洗濯したり、薪を割ったりといつも忙しそうです。この一週間で彼女の手もずいぶんと荒れてしまいました。それでも彼女は大して気にした風もなく、今日もけらけらと笑うのです。
「はい!てっぽうであたしの勝ち!」
「棗さんは本当にお強いですね…」
「うん。実家じゃ負けなしだから」
「でも黒彦先輩の方が頭が良くて優しくて綺麗です」
「こ、こら喜八郎、でたらめ言うんじゃないよ」
「先輩、顔が真っ赤です」
「あ、本当だ」
「あまり、人をからかうものではありません…」
私の中の誰かの記憶と、今しがたのやり取りとが重なりました。ああ、これはまるで、夢にまで見た友のよう。
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