吐いては捨てた夢物語



私は十になったその年の春、晴れて“忍術学園”へと入学しました。これは父の勧めです。身体と心を鍛えることで、何か変わるものがあるのではないか、と。母と姉はとても心配していましたが、二人の兄は誇らしげに笑って送り出してくれました。


一年、二年の間は頭の中の知らないモノ達に振り回されるばかりで、成績はあまり思わしくありませんでした。けれど三年生になって少しだけそれらと向き合うことができて、四年生でそれらを使うコツを覚えました。そして五年生になった今、私はは組で一番の成績を修めました(先生は、お前はい組にも負けないと言ってくださいました)。

けれどけれど、私は私の中のモノと向き合うことで精一杯だったので、悲しいことに…友と呼べる人が一人もいませんでした。


「これでは父に会わせる顔がない…」


三日月が笑う夜、瓦屋根の上で想うは家族のことばかり。いくつか前の“俺”には沢山の友がいて、新月の夜にも明るい街で楽しそうに笑っていました。…羨ましい限りです。

この学園での私の呼び名をご存知でしょうか。“気違いの黒彦”だそうですよ。面と向かって呼ばれたことはありませんが、級友達がたしかにそう言っていました。

でも、仕方ありません。私は私と向き合うのに三年も掛かってしまったのです。その間の私はさぞかし可笑しかったのでしょう。たくさんのことを考えていたので、今の私のことなのか前の私のことなのか、分からなくなってしまったりしていましたから。…だから、仕方ないのです。

ああ、でも、願うことが許されるならば、


(私は、友が欲しい)




吐いては捨てた夢物語


(3/25)


色変わりて