ただ、仲がいいだけで



「学校に送る写真決まった?」
「今選んでるとこ」
「……なんか、悪意を感じる」
「悪意あるもん」






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初日ということもあり、練習は軽めにして残りの時間をミーティング、という形で終わった。賑やかな夕食の後は飛行機疲れや時差ボケを考慮して早めの解散。まあ、みなさん消灯までは部屋でトランプやったりしてるみたいですが。

俺は一人寂しく、食堂で今日撮った写真の選別中。意図的に偏った選び方をしていない、こともない。綱海さんのベストショットはまあ、外せないよね。しかし悲しいかな。みんな元がイケメンなので画面を見ているのがとても辛い。


「ちくしょーイケメン滅べ!」


俺のガッツポイントは0です!まさか写真選びがここまで心折られる作業だとは思わなかった!パソコンを押しのけて机に突っ伏し、おいおいと一人で嘘泣き。俺一人で孤独な作業してるからいけないんだ。せめて誰かいればここまでガッツポイントをガリガリ減らされるようなことには……。


「あ、もうしかして今日の写真整理してた?」
「春奈!今だけ君に感謝する!」
「今だけって何よ。これから先ずっと感謝しなさい」
「……理由も聞かずにそんな返しをするかお前は」


で、何?と首を傾げた春奈は麦茶を取りに食堂の奥へと入っていくと、二人分のコップと麦茶入りのディッシャーを持って戻ってきた。俺が重いディッシャーを受け取り麦茶を注いで、春奈は頭の上に乗せた眼鏡をかけ直しながらパソコンを覗く。新聞部時代もこうして一緒に写真の確認をしたりしていたから、パソコンの操作も慣れたものだ。


「さっすが智里くん。ちゃんと撮れてるじゃない」
「でもやっぱり難しいよ。ピンが甘いのもけっこうあるし」
「大丈夫大丈夫。なんたってこの音無春奈の推薦なんだから!」
「そのこころは?」
「あたしの眼鏡に適ったのはあなただけでしょう」
「あ、こら!俺目は良いんだから眼鏡かけさせんな!」


声からして笑ってるんだろうけど、無理矢理かけられた眼鏡のせいでぼやけてよく分からない。

似合う?似合わない。うるせー!ちょっと、壊れたらどうするのよ!……と、しばらく二人で眼鏡の押し付け合いをして遊んでいた。もうすぐ消灯だから、声はなるべく抑えて。けどまあ、運悪くと言うかタイミング良く言うか、食堂のドアが開いてしまったのだから救えない。


「ゴメン。邪魔した」


丁度、春奈に眼鏡をかけさせていた俺を見て、ボサボサになった髪を直す春奈を見て、その人物はさっさとドアを閉めた。いや待てすごく嫌な予感がする……!

慌てて閉じたドアを開けて廊下に飛び出す。すぐに競歩並の速さで立ち去ろうとする後ろ姿を見つけ、俺はなりふり構わずその背中にしがみついた。


「ちょっと待ってください!なんか嫌な勘違いしてませんか風丸先輩!!」
「離せ!お前らがそんな仲だとは思ってたが不謹慎だぞ!!」
「さらっととんでもない誤解を晒してくれやがりましたね!春奈とは断じてそんな仲ではありません!」
「この期に及んで往生際が悪い!!」
「だったらまず鬼道先輩の部屋に向かってるその足を止めてくださいいいいいい!!」

「二人ともうるさい!!」


スパーン。清々しいまでに乾いた音が廊下に響いた。キンキンする耳を押さえて顔を上げると、若干涙目になった風丸先輩が春奈の方を見ていた。春奈の両手にはスリッパが構えられている。犯人は、お前か……!


「もう消灯なんですから!廊下ではお、し、ず、か、に!」


言葉を区切りながら強調する春奈。返事は!?と聞くと同時にまたスリッパを掲げたので風丸先輩と一緒に元気良く返事をした(これもたぶんうるさかったと思う)。

でも春奈も十分声デカイ。これはぼそっと小声で言ったのだが、春奈の耳にはきっちり聞こえていたらしい。スパーン!と景気の良い音が再び廊下に響いた。合掌。




ただ、仲がいいだけで

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