別に嫌いでもないけれど



「ねえ春奈」
「何?」
「被写体動くのってメンドクサイ」
「にんげんだもの」
「人間離れしてるけどね」






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カメラを構えて、連続でシャッターを切る。何枚か続けて撮ったところで画面を確認。日差しが強すぎるので手で影を作って画面を覗き込めば、予想通りの映りに肩が落ちた。


「写真どう?良いの撮れた?」
「ダメ。ほとんど白飛びしてるか逆光で顔が暗い」


横からひょっこり覗き込んできた春奈にそう返し、汗の流れる顎を乱暴に拭った。

ライオコット島は日本より日差しが強いらしく、向こうで使っていた設定では上手くいかなかった。でも光が強いってことはシャッタースピードを速くしてもしっかり撮れるってことだから、あながち悪いことばっかりってわけでもない。…慣れればの話だけど。

そうやって少しだけ雑談をすると、春奈はすぐにマネージャーの仕事へと戻って行った。バタバタと慌ただしく駆ける後ろ姿。俺はなんとなく、シャッターを切る。


(あ、今の良く撮れたかも…)
「おい、今何を撮っていた」
「ひいいいいいッ!?」


ようやく撮れたまともな写真にニマニマしていたら、突然背後からやたら殺気の籠った声がした。手が置かれた肩からミシリと嫌な音がしたけどこれはたぶん気のせいですよね!


「き、鬼道先輩…!」
「何を撮っていたと聞いている」
「あ、いや、そのですね、別にやましい気持ちがあったとかではなく、」
「カメラを見せろ」
「はいいいい!!」


やだ!やだ!俺ったらタイミング悪すぎ!たまたま春奈の後ろ姿撮ったら鬼道先輩に見つかるとかタイミング悪すぎ…!あとゴーグルの下の目が透けて見えてすっごい怖かった!目付き悪いこの先輩!


(これで春奈がパンチラなんかしてたら俺絶対殺される…)


もはや白目を剥く勢いである。カメラを操作する鬼道先輩は終始無言で、眉間の皺は寄ったまま。そして一分なんだか一時間なんだか分からないような時間感覚の中、俺はひたすら神に祈り続けた。これあれだろ、ヘブンズタイムだろ。次の瞬間ぶっ飛ぶフラグだろ。そんなことを考えて必死に現実逃避。しきれてない。しかし不意に頭がずっしりと重くなったことで思考は停止…というかこれ確実に誰か乗ってる!


「鬼道、次俺にも見せてくれよ!」
「ああ」
「なあなあ、カッコ良く撮れてるか?」
「…歯が眩しいな。だが悪くはないと思う」
「お、鬼道のオスミツキ!」
「ちょ、綱海先輩、おもい…っ」
「はは、わりいわりい!」


最初は急過ぎて分からなかったけど、声と視界の端にちらつくピンク色の髪とで綱海先輩だと分かった。あまり悪びれた様子もなく笑って俺の頭をぼふぼふ叩くこの先輩、さすが沖縄出身なだけあって暑さに対する耐性が半端じゃない。じゃなきゃこの環境で人にくっついたりしない。

でも綱海先輩が来てくれて良かった!少なくとも鬼道先輩と二人っきりよりはマシ!…なはず。


「へー、写真で撮るとこうなんのか。…あ、この後ろ姿って音無か?」


前言撤回。
やっぱこの人いない方が良かった。


「いちおう監督含め選手以外の写真も撮るように言われてたので!別に深い意味は全くもってこれっぽっちもありませんので!」
「そうか?案外音無のことが好きだったりして」
「はいいいいいい!!?」


何言ってくれちゃってんのこの人!?そんな顔赤くして〜…じゃない!ただでさえ暑いしそ、そんな訳分かんないこと言われたら頭に血も昇るわ!

しかし頭に登った血も鬼道先輩を見た瞬間ジェットコースター並の勢いで急降下。すっごいこっち見てる。これは非常にマズイ。


「安心しろ!誰にも言わないでやるから!」
「だっかっら!さっきから違うって言ってるじゃないですか!だいたいあり得ないです!春奈なんかちーーっとも!これっぽっちも!好きじゃありま、ぜっ…!」
「あ」


好きじゃありません、と最後まで言い切れずに言葉は途切れた。なぜなら俺は鬼道先輩に鉄拳制裁をお見舞いされたからだ。…痛い痛い痛い舌噛んだ!!頭痛いし口ん中も痛い!!


「なんれ殴るんれふか!!」
「なんとなくだ」


もう俺絶対鬼道先輩と仲良くできない!あとそこで腹抱えて笑ってる綱海先輩は全部歯だけ真っ白な状態で撮ってやる!変顔じゃないだけマシだと思え!


「あははは!二人ともホントに音無のことが好きなんだな!」


そう言って無邪気に、まるで夏の太陽のように笑う綱海先輩。この海んちゅとっとと海に帰れと心の底から願った俺は悪くない。




別に嫌いでもないけれど

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