五つ集めたありがとうを机の上に並べた。その横には宛名も差出人もない葉書が一枚。俺はやっぱり、と呟く。


ありがとう


この文字と、願いの文字は違う字だ。今までは平仮名五文字だけで特に疑問も抱かなかった。けれど、何度も見ていれば気付くこともあるというもので。

なんというか、ありがとうの方は人の匂いがするけど願いの方にはそれがないんだ。…うん。ものすごく感覚的なもので申し訳ない。強いて言うならありがとうは暖かくて、願いは暖かくも冷たくもない。無機質?って言うのかな。そんな感じ。おまけに消えるし。


まあ、願いを叶えていく内に、そんな風に分からなかったことが少しずつ分かるようになってきている。前述の文字についてもしかり。他にもまた別の意味で“分かるようになったこと”がある。これは正直、言葉にするのは恥ずかしいので割愛します…。





「今日は調子が良いみたいだな」
「…鬼道、もしかして初戦見に来てた?」
「まあな」
「マジかよおおお」


かっこわりー、という言葉はドリンクと一緒に喉の奥へと無理矢理流し込む。

FF二回戦、俺達雷門中イレブンは予想外の人物とピッチに立っている。あの帝国の、あの鬼道。イナビカリ修練場での特訓の甲斐あって、俺達の個々の身体能力は格段に上がった。けれどその伸びにはバラツキがあって。結果から言えば、パスの一つも満足に回せなくなってしまった。

そんなちぐはぐの俺達を繋ぎ合わせたのが鬼道だ。もちろん帝国にいた時から鬼道がすごい奴だってことは知ってた。でも一緒に並んで走って、同じゴールを目指して初めて、俺が思っていたよりもっとずっとすごい奴なんだって分かった。鬼道は何より、頭が良い。


(鬼道なら、いい案出してくれるかな)


ハーフタイムの終わりが近付き、審判の声が掛かる。中身の減ったボトルをマネージャーに渡して、俺は靴紐を縛り直すために身を屈めた。


「なあ、鬼道」
「なんだ?」
「良い“約束”ってなんか思い付かない?」
「………は?」


たっぷり間を空けて、怪訝な顔。盛大に顔をしかめた彼はピッチに向けていた足を反転。俺へと向け直し、一歩だけ前へ出た。少しだけ、視界が陰る。


「それは哲学的な質問か?」
「うーん、近いような遠いような?」
「…人の価値観によって変わるものだ。一概にどうとは言えない」


リボン結びにした靴紐を更に編み目の部分へと押し込んだ。しきりに腕時計を気にする審判の横をすり抜けてピッチへ向かう。隣に並んだ鬼道は一度ベンチを振り返った後、俺にしか聞こえないくらいの声でこう言った。


「…ただ、守れない約束は、裏切りに等しいと思う」


一拍置いて、参考になったか?と笑った鬼道の表情はゴーグルのせいでいまいち分かりにくい。それにまだ付き合いも浅いし。鬼道が何を考えているのかなんて、ほとんど分からない。

…でも、そっか。守れない約束ならはじめっからしない方がいい。それは当たり前で、大事なことだ。


「うん、ありがと。参考になった!」







友達と約束をしてください


そう願われたなら、俺は“約束を破らないこと”を約束しよう。またお前はって笑われそうだけど、小指を引っ掛けて、約束の歌も歌いたい。

風丸はきっと、仕方ないなって顔で笑うんだろうな。





六の願い


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