とりあえず一つ目の願いとやらをミッション・コンプリート。コンプリートの証は意外とわかりやすく、教科書に『ありがとう』と書かれた紙切れが入っていた。

でもどこの誰が、何の意味があって俺にあんなお願いとやらをしたのか…。よくわかんねえなあと頭を掻いていたら、どうした?と風丸に声を掛けられた。なんでもないっすと返せば、いつまでその口調続ける気だ、と小突かれる。今度の紙はなぜか、消えなかった。


それから一日経った今日。ジャージのポケットにも靴の中にも願いとやらは入っていなかった。今日はお休みですかねー、なんて呑気に欠伸を一つ。

しかし、鞄から筆箱を取り出すとその中に小さく折り畳まれた紙切れが。




友達と話をしてください




(だからさああああ!)


つい勢い余って紙を握り潰してしまった。だって!なんで!そんなことを俺にお願いするわけ!?本当に!


「あーもー意味わかんねーっ!!」
「なんだ、荒れてるな片貝は」
「荒れてません!」
「はいはい。お前日直なんだから、後で日誌取りに行くの忘れるなよ」
「…うへえ、忘れてた」


日直なんて、面倒臭いことばっか。きりーつ、れーの号令掛けて、黒板消して、日誌つけて、先生呼びに行ったりしてさ。あと出席番号と同じ日って日直の日と同じくらい、ろくなことないよね。


「風丸ー」
「自分でやれ」
「まだ何も言ってないんですけど」
「手伝わないぞ」
「ですよねー…」


仕方ない。無理矢理にでも道連れにして日誌取りに行くかな。超ヘビー級の腰を持ち上げ、どっこいしょの声で誤魔化しながら後ろ髪を掴む。…前に逃げられた。チッ、勘の良い奴め。

うらめしーく風丸の片方しか見えない目を睨む。おい呆れた顔すんな、と思ったのも束の間。その目が俺の後ろへと動いて、風丸の口が後ろ、と動く。振り返ればそこには…あれ?今日の日直の相方さん?


「あ、あの、日誌なら私が先生から預かってるから…」
「お!マジで!?サンキュー!」
「あれなら、日誌も私が全部書こうか…?サッカー部ってたしか、明後日から大会だよね」
「マジで!?たすがっ」
「バカ。女子に押し付ける気か」
「いってー…冗談ですってば…」


呆れる風丸。くすくす、と控え目に笑う女子。むーっと口を尖らせてふて腐れる俺。なんだこれ、微笑ましいのか。

まあ結局、日誌は二人で交替しながらちゃんとつけた。放課後になって、先に部活行ってていいって言ったのに、風丸は日直の仕事が終わるまで待っていてくれた。…手伝ってはくれなかったけど。

えーっと…サッカー部は今、FF本選を控えているからと優先的にグラウンドを使わせてもらっている。たぶん、これは夏未さんの口添えが大きい。ありがたや。


「しっかし、いよいよ明後日から始まるんだなー」
「なんだ、緊張してるのか?」
「どっちかと言うとワクワク」
「お前は円堂か」
「あはは、たしかに円堂っぽいな、ワクワクって。風丸はどうよ」
「…楽しみではある」
「ワクワク?」
「かもな」


そりゃそうだ。最初は部員も足りなかったサッカー部があの帝国に勝って、全国大会にまで進もうってんだから。俺は全国レベルに自分がどこまで対抗できるかって考えたら、もっとワクワクした。すげー活躍してMVPとか取っちゃったりして。


「…おい、ニヤニヤするな」
「え?俺ニヤニヤしてた?」
「現在進行形で」
「ingですか」
「ん、今はed。過去形」
「おー、治まった」


そんな下らない会話をしながら、部室でユニフォームに着替えてグラウンドへ向かう。俺達に気付いた円堂が手を振った。他の皆も足を止めて、早く来いよなんて言っている。よし、早くと言うなら早く行こうではないか。

風丸は俺の一歩後ろを歩いていたから振り返り、競争でもする?なんて意味を込めて挑戦的な目を。…向けたんだけどな。風丸はこっちを見ていなかった。


「風丸さん」
「…悪い、片貝。先に行っててくれるか?」
「お?おー」


金髪の、髪の長い、見慣れない、たぶん一年生、たぶん陸上部。

俺はなんでかモヤモヤした。行っちゃヤダってふざけてやろうかとも思ったけど、風丸の隣でその金髪の子がすごく嬉しそうな顔をしていたから、やめた。


どこからか飛んできた『ありがとう』の紙切れは、俺のことを笑っていたんだろうか。





二の願い


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