Spoiled child



帝国の生徒を含めた観光客がごった返す通りで、鬼道、源田、佐久間の三人は頭を抱えていた。

通りに着いてからも逸希は鬼道のマントを握ったままで。時々引かれて首が絞まるのが気になったが、迷子になられるよりはマシかとそのままにしていた。けれどまあ、


「はぐれるだろうとは思ってたが」
「まさかあれではぐれるなんてな」
「あいつやっぱりバカだろ」


鬼道の我慢も虚しく、結局逸希は姿を消してしまった。

とりあえず、まずは連絡を取らなければならないだろう。特に誰が何を言うでもなく、三人は揃って携帯を取り出した。しかし、ここでまたもや問題発生。


「…俺、三原の番号知らねえ」
「俺もだ…」


開いた携帯の画面に三原の文字が見つからない。当然知っているだろうと思っていただけに彼ら自身、驚いた。いや、それよりこれでは連絡手段が…と、途方に暮れかける。ただし、一人を除いて。


「三原?今どこにいる?」
『皆どこー!?俺しかいないよ!』
「そうだな、鬼道も佐久間もこっちにいるから」
『Really!?どこ!?』
「俺が迎えに行くからじっとしてろ。場所は?近くに何がある?」


携帯を耳と肩で挟み、源田は鬼道に渡された地図を広げる。告げられた店の名前を目で追って見付けると、五分くらいで行くと言って電話を切った。


「俺達が通り過ぎた土産屋に寄ってたらしい」
「そうだったのか」
「源田、三原の番号なんていつ聞いたんだ?」
「始業式の日。俺は席が近かったから、その時にな」
「「なるほど」」


何がともあれ、連絡が取れて良かった。源田は地図を折り畳むと二人はここで待っていてくれと言い残し、人混みの中へ消えて行った。





逸希に言われた店の看板はすぐに見つかった。が、如何せん。人の流れに逆らって歩くのは辛い。時々ぶつかる肩に一々頭を下げていたら、思ったよりも時間が掛かってしまった。すれ違う帝国の生徒に何度か呼び止められたせいもある。それでようやく逸希の頭を見つけて、周りの喧騒に負けないように声を張り上げた。


「三原!」
「げ、源田ぁ…!」


呼べば駆け寄る犬のよう。元いた国の癖なのか、逸希は源田の顔を見るなり正面から抱き着いてきた。一歩よろけて踏み止まり、覗き込むように肩を掴んで離す。


「はは、情けない顔だな」
「だって!知らないお姉さんが“一緒にご飯食べに行かない?”って何回も言うから…!」
「それはまた、大変だったな…」


怖かったと騒ぐ逸希の頭を撫でる。一体何事だという目がいくつも向けられたが、それを弁明できるほど口の巧くない源田はただ苦笑いを溢すだけ。

逸希はちゃっかり買ったらしいお土産を握り締めて、源田の裾を引っ張った。


「もうはぐれない!源田!早く佐久間達のところに戻ろ!」
「慌てるとまたはぐれるぞ?」
「ヤダ!ゆっくり行く!」
「ん、そうするか」


木でできたハブのおもちゃをゆらゆらと揺らし、はぐれまいと必死に裾を引くその様は誰がどう見ても、幼い子供のようで。源田は思わず、仕方がないなとその手を握った。




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Spoiled child
(甘えん坊)

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