He's cute?



「旅行、お友達としっかり楽しんでらっしゃい」
「もしも迷子になったら連絡しなさい。迎えに行ってあげるから」
「ありがとう!おじいちゃんとおばあちゃんも、お孫さんと仲良くね!」


Have a nice day、と最後に手を振り、ニコニコと嬉しそうな顔で駆け寄ってくる逸希。


「お土産もらっちゃった!」
「なんでだよ!!」


がさり、と持ち上げられた袋に佐久間が怒鳴る。逸希に編まれた癖が取れなかったのか、その髪には緩いウェーブがかかっていた。これに関してはバスを降りた時点でしこたま怒られているので、逸希も何も言わない。ちなみに源田は毛質が硬いせいで癖が残らず、鬼道は言わずもがな、だ。


さて、飛行機で一人だけ離れた席に座っていた逸希だが、その間彼が自分の席を離れることはなかった。下手に席を立てば担任に注意されるし、他の客の迷惑にもなるからだ。

沖縄の空港に着いた時も帝国の生徒とは離れた並びで降りていて。今こうして担任に言われた場所で合流しても、それまでに何があったのか、佐久間と源田には全く分からなかった。

ただ、鬼道だけは違う。


「さっきのは…隣の席の老夫婦か?」
「うん!沖縄へはお孫さんに会いに来たんだって!」
「ちょっと待て鬼道。なんで隣の席って知ってるんだ?」


そう、鬼道だけはある程度逸希の状況を把握していた。逸希は悪戯っぽく笑いながら鬼道の背後に回り、その肩に顎を乗せる。


「鬼道は心配して様子見に来てくれたんだよー」
「後で機嫌を悪くされても面倒だからな」
「いーけーずー」


うりうり、と嫌がらせに頬をつつく。すぐにその指を掴まれてあらぬ方向に曲げられそうになり、逸希は慌てて身を翻して逃げた。そしてお土産と言っていた袋の中身をちらつかせながら、


「これあげるから許してね」


と、ウインクを飛ばす。掲げられた箱は三人とも一度は見たことのあるパッケージ。いつだったか、テレビで特集されていたバームクーヘンだ。買おうと思ったらそれなりに並ぶ必要がある。


「お孫さんへのお土産だったらしいんだけどね、いっぱい買っちゃったから一個あげるってくれたの」
「お前…年寄りキラーか」
「三原は人懐っこいからな」
「孫と重なって見えたんじゃないか?」


なんとなく飛行機で何があったか予想できて、佐久間は溜め息混じりに逸希の額を弾いた。逸希も痛いと騒ぐ割にはどこか嬉しそうな顔で。もう土産買ったのか、と呆れる担任には自慢気に袋の中身を見せていた。



それからまたバスへと乗り込み、ホテルを目指す。一旦チェックインを済ませた後にはホールを貸し切っての集会が行われた。浮かれすぎて問題起こすなよ、が主な内容だ。この時ばかりはさすがの逸希も眠たそうに船を漕いでいた。

そして日程の確認が行われ、班長になっている生徒(ちなみに逸希達の班では鬼道)が前へと呼ばれる。どうやらこの辺りの地図を配られるらしい。待たされている生徒は暇なだけなので、ふらふらと他のグループの所に混ざって談笑したりしていた。

残された逸希達はというと、


「こいつ、本格的に寝てやがる…」
「起こすか?」
「いや、起きたら起きたで煩いからこのままでいい」


鬼道、逸希、佐久間、源田の順の並びを少しだけ崩して、だけど場所はあまり移動せずに話をしている。ただし、逸希は後ろにいた佐久間にもたれ掛かって寝ていた。その内それがずり落ちて、今は胡座をかいた足の上に頭が乗っている状態。周りの視線が少し痛い。

そんな中、ひょろりと背の高い男が彼らの前に現れた。


「よーっす。噂の転校生見に来たんだけど」
「土門?」
「朝からずっとはしゃいでたから寝てるぞ」
「あはは、みたいだな。女子に写真頼まれた」
「写真?」
「寝顔が可愛いってさ」
「…どこが」


カメラ片手に苦笑する友人。同じサッカー部の彼は昔アメリカに住んでいたと言っていたから、似たような境遇の逸希に興味があるのかもしれない。


「佐久間と源田も映れよ。あとで現像頼んどくからさ」
「男に膝枕してるような写真もらったって嬉しくねえよ」
「まあまあ、堅いこと言いなさんな、と!」
「「あ」」


パッと手際よく切られたシャッター。反論する間もなく後ろ手に手を振って立ち去る土門。佐久間と源田は呆気に取られたままその背中を見送る。


「次は起きてる時に会いに来るわ」


と言われて、我に返った佐久間は逸希の頭を膝から落とし、土門の持つカメラを追い掛けた。



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He's cute?
(彼ってかわいい?)

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