Feel lonely



夜が明けて間もない朝。暖色の光が街を撫でて、澄んだ空気が辺りを包む。


「お土産、忘れないでね」
「私あれがいい。穴の空いてないドーナッツみたいなの」
「分かった。美味しいの探して買ってくるね!」
「ん。いってらっしゃい」
「Have a good time」
「Thanks. Bye!」


玄関先まで見送りに来た母と姉。二人とハグを交わした逸希は大きな荷物を抱え直して手を振った。

今日は待ちに待った修学旅行。朝は早いし荷物は重いけれど、そんなことも気にならないくらいワクワクしていた。










「Good morning!佐久間!駅で会うなんて奇遇だね!」
「……あ?」


いつもの通り帝国学園前の駅で降りて改札を抜ける。朝が早いだけあって、周りは同じように大荷物を抱えた帝国学園の生徒が多かった。

その中から見慣れた冬の空のような薄い青を見つけ、逸希は嬉しそうに駆け寄る。


「修学旅行だよ!」
「そんなの言われなくたって分かってる」
「…佐久間、つれないね」
「お前が朝から元気過ぎるんだ」


俺は眠いと欠伸を溢す佐久間に釣られて、大して眠くもないのにふあ、と口が開いた。

欠伸ってどうして移るんだろうね。
そんなの知るか。
鬼道なら知ってる?
かもな。

眠い眠いとぼやく佐久間に合わせてゆっくりと歩き、正門をくぐる。何台も並んだバスの前には既に他の生徒が集まり始めていて。その中にあっても、背の高い源田と目立つ出で立ちの鬼道はすぐに見付かった。


「Good morning!鬼道、源田!」
「お前は相変わらず、朝から元気だな」
「それ佐久間にも言われたよ」
「元気と言うよりウザイんだよ、こいつの場合は」
「賑やかでいいんじゃないか?」
「ねー」


飽きれ顔の鬼道が溜め息を吐く。佐久間は逸希を親指で指しながら顔をしかめて、源田は少しだけ口元を緩めて笑った。

しばらくそうして中身のない話を続けていると、人混みの向こうから担任が現れた。どうやら逸希を探していたらしい。彼の顔を見つけるなり、どこか申し訳なさそうな顔をしながら近付いてきた。


「ああ、三原、ここにいたのか」
「先生おはよ!」
「おはよう。早速で悪いんだが、お前にちょっと謝らなきゃならんことがある」
「え!」


謝らなければならない。それはつまり、逸希にとって悪い報せ。修学旅行当日にそれはないんじゃ、とも思ったが、校風にそぐわず何かと緩い担任のことだ。今まで忘れていたのかもしれない。


「飛行機の席のことなんだが…」
「ま、まさか取れなかったとか…!?」
「あ、いや。取れはした。ただ帝国の席からだいぶ離れてる」


胸ポケットから取り出されたチケットの束。そこに振られたアルファベットと数字の列は綺麗に並んでいた。が、たしかに一枚だけ、やけに離れた番号が印字されている。逸希の転入に合わせて後から取ったせいだろう。

…つまり、朝早くに起きた皆の目が覚めて、飛行機にテンションが上がってわいわいとはしゃいでいようと、その輪の中には入れない。


「…ってこと?」
「ってことだ。ちなみに帰りの席も離れてる」
「Nooo...」


寂しいよ佐久間、と制服の裾を引っ張る逸希。一緒に行けるだけマシだと思えと振り払われ、彼は更にしょげた。

せめて空港までのバスくらいは、とすがり付くも、三人ともバスに乗るなりすぐに寝てしまって。結局、嫌がらせに髪を三つ編みに編むことくらいしかできなかった。



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Feel lonely
(さびしい)

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(5/25)


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