Can hardly wait



「修学旅行?」
「ああ、三原は転校してきたばかりだから知らないのか」


昼休み、逸希と源田の机を向かい合わせにつけ、弁当をつつく男が四人。机の主である逸希と源田はもちろんで、あとの二人は同じサッカー部の鬼道と佐久間だ。

鬼道は学級委員長として面倒を見てやってくれ、と頼まれたのがきっかけ。そして意外にも、逸希は佐久間とも親しくなっていた。てっきり一触即発が続くのではないのかと思われていたが、佐久間曰く、


「二回殴ったらすっきりした」


とのこと。逸希はやっぱり男前ーと間延びした声で笑った。


「で、修学旅行がどうかしたの?」
「担任がお前は俺達と同じグループで良いかと聞いててきた」
「Of cource!俺もそれが良い!」


逸希の問いに鬼道が答えたが、それだけの言葉で足りる内容でないのはみんな分かっている。ただし、逸希だけはいまいち分かっていない。


「それで?どこに行くの?」
「一年は沖縄だ。海外に行けるのは二、三年になってから…だったか?」
「ああ。今回は三泊四日で、」
「出発は来週の金曜日」
「え?」


源田、鬼道、と繋がれ、佐久間で締め括られた言葉に逸希の箸が止まる。始業式があったのは今週の火曜日。そして今日は金曜日。…修学旅行まであと一週間しかない。


「That's very busy...」
「新学期が始まったばかりでゴタゴタしてたからな。今日の五限目の集会はそれ」
「佐久間!なんでもっと早く言ってくれなかったの!」
「黙れ!俺だって担任から聞かされてると思ってたんだ!」
「Oh my god!!」
「…おお」
「源田、卵焼き落としたぞ」


ああ、なんてことだとお決まりの台詞にオーバーなリアクション。本場のオーマイガッ!に源田はなぜか感動していて、その拍子に落とした卵焼きを鬼道が指摘した。逸希と佐久間は未だに言い合いを続けている。


「ねえそんなに急でホントに行けるの!?今日初めて聞いたんだよ!?」
「俺が知るか!鬼道が担任にグループのこと聞かれてるんだから行けるだろ!…たぶん」
「たぶん!?」
「飛行機の席とか、大丈夫なのか?団体だから急だと空いてないんじゃ」
「源田まで…!」
「安心しろ。いざとなったら俺が用意してやる」


重箱のような弁当をつつきつつ、鬼道はさらりと言い放った。正確には父さんに頼むことになるが、とも続けられて逸希は首を傾げる。反対に、佐久間と源田は納得したように手を打った。


「そうか、鬼道財閥か」
「鬼道財閥?」
「名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「うん」
「それが鬼道の家」
「へー」


よく分かんないや、と最後の唐揚げを口に放り込む逸希に、二人はがくりと肩を落とした。鬼道は意味ありげに笑いながらその様子を眺めている。

わざわざ話題に挙げてまで話すようなことではない。けれど、それを知っても何も変わらない逸希にどこか安心してしまったのも事実で。彼の笑みはそんな自分自身を笑ったものだった。


「とにかく、三原が修学旅行に参加できることに変わりはない。だから、お前は何も気にしなくて良い」
「鬼道…!」


男前ー!と叫びながらその背中に抱き着く逸希。過剰なスキンシップに慣れていない鬼道は反射的に逸希の頭を叩き落とす。

それでも、四人の顔は楽しそうに笑っていた。



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Can hardly wait
(待ち遠しい)

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