This is just the beginning



水族館に行く日程を決めたその日から、逸希は例のごとく目に見えて浮かれていた。

部活の忙しい三人に代わって水族館のことを調べ、ホームページからショーの内容や時間をプリントして学校へと持ってくる。中でも逸希と佐久間を興奮させたのはペンギンショーだ。ショーの後にペンギンに触れるという一文を見つけ、その日は二人で一日中騒いでいた。

ペンギンが絡むと佐久間の逸希に対する態度も柔らかくなるらしく、鬼道が最初に感じた違和感も次第に気にならないものに。余談だが、この週の四人のノートは逸希と佐久間が描いたペンギンで可愛らしいことになっている。


そして迎えた日曜日。全員が約束の時間より早く集合場所にやって来た。最初に着いたのは逸希だったが、私服姿を見るのはこれが初めてなのでなんとなく変な感じがする。


「私服だと印象が変わるな」
「目立つのには変わりねえけど」
「また声を掛けられたりしなかったか?」
「大丈夫、してないよ!三人とも私服かっこいいね!」


見た目が変わっても中身はいつも通り。そのことになんとなくほっとしてしまう三人だった。


無事時間前に全員が揃ったので予定よりも一本早い電車に乗り込む。天気は快晴。今度の水族館は沖縄と違い、屋外にもアトラクションがあるから天気が良いに越したことはないだろう。

そわそわと落ち着きなくパンフレットを開いたり、昨日は寝れた?と聞いてきたり、パンフレットを閉じたりを繰り返す逸希。痺れを切らした佐久間が恥ずかしいからやめろと手の甲を抓るなどのやり取りを経て、水族館へ到着した。

真っ先に駆け出そうとした逸希のリュックを今度は鬼道が掴んで、まずはチケットを買うために売場へと向かう。呆れ顔の佐久間は丸めたパンフレットで逸希の頭を軽く叩いた。


「お前なあ、小学生じゃねえんだからもう少し落ち着け」
「うう…」
「沖縄の時より落ち着きねえだろ」
「だって、三人ともいっつもクラブが忙しいから、休みの日にも会えるの、嬉しくて…」
「あーもうはいはい!分かった!お前はそういう奴だよ!」


いつだって逸希の言葉は直球一本。
いつだって佐久間は見逃し三振。

打ち返す勇気は残念ながらまだない。


「二人とも、鬼道に置いてかれるぞ」
「うわ、待てって!」
「逸希は靴紐が解けてる」
「Hang on!Don't leave me behind!」
「ちょっと待って、に、behindで…」
「置いてかないで、だよ!Thanks!源田!」
「ん。転ばないようにな」


源田に言われて靴紐を縛り直し、すぐに駆け出そうとしたのをやめてその場で足踏みを繰り返す。

その背は鬼道と佐久間より高い。声変わりはまだ。運動神経が良く、頭も良い。しかし言動と行動は幼い。


「ん?俺の顔、何かついてる?」


いつの間にか源田は逸希の顔をじっと見詰めていた。そしてなんとなく、頬をつまむ。佐久間のように無理に引っ張ったりしないものだから、逸希は不思議そうな顔をしながらもされるがままだ。


「逸希は面白いな」
「そう?俺も源田たちといると面白いし楽しいから、嬉しい!」


頬をつままれたままへらりと笑う逸希。釣られて源田の頬も緩む。

源田が面白いと言ったのはこれだった。なぜか逸希が笑うと一緒に笑ってしまうのだ。まるで気持ちが伝染するかのように楽しい、嬉しいといった感情がふつふつと沸き上がる。

さすがに言動や行動まで伝染することはなかったが、それでもクラスメイトからすれば随分と親しみやすくなったことだろう。これは鬼道と佐久間にも言えることだった。


「源田ー、逸希ー。お前ら学生証持ってきてるかー?」
「財布に入ってる!」
「俺も持ってきてる」
「んじゃさっさと出せ。チケットまとめて買うから」
「すみません、学生四枚で」


後ろでもたもたしていた二人を見かねて、鬼道と佐久間は先に入場券を買おうとしていた。帝国学園と書かれた四つの学生証を見せ、人数分の入場券と地図を受け取る。

それぞれを配りながら、まだ入場すらしていないのに疲れた気がするのはなぜだろうか…と、溜め息をつく鬼道だった。



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This is just the beginning
(これからだ)

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