Cover one's embarrassment



逸希は飽きっぽく、特に勉強などはすぐ集中が切れるタイプに見られることが多い。だが実際にはその逆で、やり始めてしまえば無言で作業できる程度には集中力があった。

普段の授業態度からそのことを知っていた源田は、“逸希はそういう性格”という認識だったし、今さら大して驚くこともなかった。逆に、このことを知ったら席の離れている鬼道、特に佐久間辺りは驚くだろうが。




「おう、源田じゃん」
「佐久間だ!おはよ!」
「うるせえ。俺は源田に話しかけてんだよ」
「佐久間ひどい!」


逸希が源田の家に泊まった翌日の朝。帝国学園の最寄り駅で降りて同じ制服でごった返す中、改札を抜ける。そして、そこで特徴のある髪型を見付けた佐久間が源田の肩を叩いた。

もちろん、隣にいた逸希の存在にも気付いていたが、朝から鬱陶しそうなのでそっちは無視したかったらしい。慣れたやりとりではあるものの、源田は間に挟まれて苦笑を溢す。


「おはよう佐久間。なんか、ここで三人揃うのは珍しいな」
「俺たちは朝練があるからな。このうるさいのがいるってのが珍しい。というか鬱陶しい」
「うっとーしくないよ!」
「んじゃ大人しくしてろ。……これで鬼道が揃えばもっと珍しいんだけどな」
「鬼道は車だからさすがに無理だろう」


源田と逸希は同じ路線ののぼり電車。佐久間は同じ路線だがくだりの電車。元々待ち合わせもしていなかったから、駅で一緒になったのは偶然だ。しかし鬼道は家の送迎車があるので途中で一緒になるようなことはまずない、はずなのだが、


「分かんないよー。Why only two without three?」
「二度あることは三度ある、か」
「そういうこと!」


悪戯っぽく笑って、二人よりも前に出る逸希。妙に自信を持って言っているようにも見えるものだから、源田と佐久間は首を傾げた。別に待ち合わせの約束をしていたわけでもない。逸希はなんとなく、そんな気がしただけ。

お前はまた根拠のないことを、と佐久間が逸希の頬を抓ったが、この手の逸希の勘は意外とよく当たるのでありえないとも言い切れなかったりする。


「ひゃくまはもっと俺にやひゃひくふるべき!」
「何言ってるかわかんねー」
「あ!きどーだ!」
「そんな古典的な手に引っ掛かるかよ」
「……なんと言うか、お前たちは相変わらずだな」


逸希が佐久間の後ろを指差して、源田がすぐにそちらを振り向いた。佐久間はどうせ嘘だろうと振り向かなかったのだが、溜め息混じりの呆れたような声が聞こえてはっとしたように振り返った。


「おお、マジで鬼道だ」
「ほらね!嘘じゃなーい」
「おはよう、鬼道。今日は電車だったのか?」
「いや、お前たちが駅から出てくるのが見えたからそこで下ろしてもらったんだ」


鬼道がそこと言って指差した先には、黒塗りの車の隣に立って丁寧に腰を折る運転手がいた。佐久間と源田は反射的に小さく頭を下げて、逸希は運転手の真似をするように丁寧なお辞儀を。そして鬼道が軽く手を上げて合図すると、運転手は車に乗って元来た道へと戻って行った。

駅から学校までの短い道のり。朝から四人揃ったことが嬉しい逸希はすごいね、嬉しいよ、と顔を綻ばせる。他の三人はあまり感情を表に出さないタイプであったし、回りにもそういうタイプの人間はいなかった。

だから、逸希の素直な性格にどう反応していいのか分からなくなる時がある。早い話が恥ずかしいのだ。こういう時、決まって耐えられなくなった佐久間が、


「お前やっぱ馬鹿だろ!」


と、逸希の頭を叩いたりするのだが、それを照れ隠しだと分かっているのは当人たち以外だけだったりする。



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Cover one's embarrassment
(照れ隠し)

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