It's a comfort to watch



範囲表を確認して、日付を確認して、周りを確認。部活がテスト前の休みに入ったことを伝えに行った鬼道と佐久間の姿はない。

逸希と源田は留守番。源田は時間を惜しんでせっせとテスト勉強をしていて、逸希は窓枠にもたれてそのノートを眺めていた。


「源田、今日から部活ないんだよね?」
「ああ、テストも近いからな」
「よし!じゃあ俺、今日源田の家に泊まるからね!」
「は!?」


逸希の行動はいつだって突然だ。彼にとっては考えに考えた末の行動だったとしても、唐突に答えを出すものだから周りはなぜそこに至ったのかが分からない。例えるなら途中計算もなく出された数学の答え。源田は当然のように首を傾げた。


「泊まりに来るのは別に構わないが…。どうしてまた急に?」
「一緒に勉強しよ!それで、鬼道と佐久間びっくりさせる!」


曰く、平均点以下を取った時の仕打ちを聞いて源田の身が心配になったらしい。驚かせよう、というのは単純にその方が面白いから。


「でも良いのか?逸希だって自分の勉強があるだろ?」
「人に教える方がずっと勉強になるよー」
「俺の家、学校から結構遠いし」
「No problem!俺の家も遠い!」
「親も心配するんじゃないか?」
「ちゃんと一回帰るから大丈夫だよ!」
「でも……」


次々にやんわりとした否定の言葉を出しては、申し訳なさそうに眉尻を下げる源田。もちろん嫌だから言っているのではなく、あくまで逸希を心配してのことだ。しかしまあ、これだけ否定され続ければさすがの逸希の勢いも凪いでしまうというもので。


「…も、もしかして俺、迷惑だった…?」


涙目に、源田に負けず劣らず眉尻を下げて恐る恐る顔を覗き込む。逸希は良くも悪くも常に本気だから困る。鬼道や佐久間辺りならそう思いもしただろうが、源田はそんな顔をさせてしまったことに狼狽えるだけ。

反射的に手離したペンが机から転がり落ちる。ペンを拾うのが先か、逸希の誤解を解くのが先か。わたわたと手の平をさ迷わせる源田に代わって隣の細河が「落ち着け」と笑った。


「あ、ありがとう細河。あと、逸希、違うんだ。そういう意味じゃ、ない。むしろ、すごく有難い」


しどろもどろ。ぶつりぶつりと切れる言葉がどうにも情けないが、逸希の調子を戻すには十分だった。途端にぱっと顔を綻ばせた逸希に源田はほっと胸を撫で下ろす。

しかし集中力は切れてしまったのか、開いていたノートをぱたりと閉じる。それを見た細河はずっと気になっていたことを尋ねた。


「源田、今回のテストヤバいのか?」
「…ああ」
「ゴメン、頑張れとしか言いようがない…」
「いや、普段から勉強していなかった俺が悪いんだ」
「でも源田は頭良いから大丈夫だと思う…というか逸希はさっきから何してるんだ?」
「せっせっせー?」
「の、よいよいよい。…って言わせんな」


源田の両手を掴み、リズムをとるように上下に揺らす。いわゆる子供の手遊びのつもりなのだろう。唄もなく無言で遊んでいるので奇妙な光景ではあるが。


「源田ってさ、キーパーなんだっけ」
「ああ」
「手の平おっきいね。それに硬いよー」
「沖縄の時も思ったが、逸希も意外とマメとかあるんだな」
「うん。テニスとかバスケとか、いろいろ!」
「そうなの?…あ、ホントだ。マメだらけ」


掴んでいた手の平を離し、天井へと向ける。この三人の中ではやはり源田の手が一番大きくて、逸希の手も意外に男の子らしいものだった。横から覗き込んだ細河も不思議そうにマメをなぞる。

右手を握る源田、左手をなぞる細河。益々奇妙な光景。逸希がくすぐったいと騒いでも二人はお構い無しだ。


ああ、三原達がまた何かやってる。と微笑ましく思われるのは、このクラスの常となりつつあること。特に気に留めるほどのことでもないのだろう…と、思う。



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It's a comfort to watch
(見ていると心がなごむ)

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