Solo reflection



「修学旅行終わってすぐテストとか鬼だよなあ」


東京へ戻って四日振りの授業は精神的に辛いものがあった。そこに追い討ちをかけるように定期テストの範囲表が配られたのだから、生徒達の落ち込み具合もなかなかに酷い。この容赦なく現実を突き付けてくる辺りが帝国らしい、のだろうか。

各教科の出題範囲、それに加えて提出課題の書かれた紙を眺めるいつもの四人。そして四人が四人、違う反応を示していた。


「ま、今更必死こいて勉強するのは馬鹿のやることだな」


さらりと毒を吐いた佐久間は前回の定期テストで上位二十人以内に入るくらいには頭が良い。テスト前は出された課題をこなして教科書を読み直す程度。特別なことはしない。


「佐久間に賛同するわけではないが、日頃の積み重ねは大事だな」


そう言って苦笑を溢したのは鬼道だ。彼は帝国学園に入学する前、入試の時点から学年トップに君臨し続けている。修学旅行があったからと言ってその座は揺るぎそうにない。


「俺は、辺見と並んで勉強することになるかもしれない…」


しかし、源田は範囲表を握り締めたまま項垂れていた。彼も決して頭が悪いわけではない。むしろいつも上位に食い込んでいる。けれど彼の場合それは前の二人と違い、直前の詰め込みによるものが大きかったため、このように落ち込んでいる。

残るあと一人は、


「辺見と並んでって、どういう意味?」


と、首を傾げた。たしかに彼は転校生なのだから、そこを疑問に思うのも仕方ないかもしれない。鬼道は小さく頷く。反対に佐久間はいつもの調子でぽかん、と逸希の頭を叩いた。


「空気読め。まずは今回のテストどうなりそうかってとこからだろ」
「痛い!…ん?テスト?日本のテスト、これが初めてだから楽しみだけど」
「源田、良かったな。仲間がいたぞ」


的外れな解答を否と受け取った佐久間は慰めるように源田の肩を叩く。一方、眉を八の字に下げた彼は力無く首を振った。これの意味するところを理解出来たのは恐らく、側でこっそり話を聞いていた細河だけだろう。


「ねえねえ、辺見と並んでってどういう意味?」
「馬鹿って意味」
「ん?」
「省きすぎだ佐久間」
「一つでも平均点以下を取った奴はピッチの横まで机を運んで勉強させられるんだ…」
「別名“馬鹿の恥晒し”」


一学期の中間テストでは入試のために勉強をした分もあり、上記の該当者は出なかった。しかし期末になると部活の忙しさからか、ついに該当者が出た。それが辺見だ。

ピッチ横に置かれた机と椅子に、一年生達はまさかと顔を青くした。過去に経験済みの先輩はその光景を感慨深げに眺め、それ以外の先輩は笑ったり憐れんだり…まあ、反応は様々だったとか。


「すごいね…。ピッチ横ってボールとか飛んでこない?」
「バンバン飛んでくる。先輩とか手加減しねえしな。あと平均点以下の教科数によって机の位置も変わる」
「数が多いほどゴールに近くなるんだ」
「…シュート、飛んでくるよね」


それは、はっきり言って勉強どころでないのでは。ボールの恐怖に脅かされ、晒し者にされて羞恥心に耐えながらの勉強…。とても集中できる環境とは思えない。


「けど効果はあるぜ。あれがあるから普段から勉強するようにもなるし」
「実際、二、三年は該当者なしだったしな」
「It's so drastic remedy」
「源田、日本語訳」
「え、え…?」
「drastic remedyは荒療治という意味だ」


急に振られて狼狽える源田に替わり、鬼道が淡々と答える。そして彼がそんなの習ってないぞと項垂れる横で、逸希は何かを考え込んでいるようだった。

さて、一体何を思いつくのやら。



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Solo reflection
(じっくりと考える)

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