Green-eyed monster



「あれで誤魔化せると思ったか?」


そう詰め寄られて、佐久間と源田は思わず押し黙った。

朝練の後、ボールを集める僅かな時間。眉間に皺を寄せた鬼道がゴーグル越しに二人を睨んだ。調子が悪かった理由は分かっている。だけど、理由の理由が分からない。その気持ちをどう言葉にしたものか、悩みながらも二人は話し出す。


「細河が“日記を見せた辺りから”って言ってただろ?」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたな」


普通、日記は他人に見せるものではない…というのはこの際つっこまない方が良いのだろう。何せ相手はあの逸希だ。


「その日記ってのが全部英語で書いてあって、アメリカの友達もしょっちゅう落書きしてたみたいでさ」
「最後のページに日本語で“絶対会いに行く”と書いてあって…」
「…なんか、それが気に食わなかった」


でも、なんで気に食わなかったのかが分からない。手に持ったボールを見つめて不機嫌そうな顔をする佐久間。俺もそんなところだ、と源田は苦く笑った。

鬼道はなんというか…なんとも言いがたい顔で二人を見る。子供地味た感情。二人だって名前くらい知っているだろうに。相手が逸希だからその答えに行き着けないのかもしれない。なら、変に行き詰まる前に教えてしまおうと口を開いた。


「有り体に言えば、やきもちだな」
「…はあ!?なんで…!」
「俺達はアメリカにいた頃の三原を知らないし、関われない。置いてきぼりを食らったみたいで嫌だったんだろう」
「ああ、なるほど」
「げ、源田は認めんのかよ!」
「別におかしいことじゃないだろう?」
「俺は認めねえ……」


佐久間は“やきもち”という言葉が余程気に入らないらしい。手に持ったボールに爪を立てて、ぎ、と口をへの字に曲げて何もない所を睨んだ。


「認めないのはお前の勝手だが、本人には当たるなよ」


という鬼道の助言も、彼の耳に届いていたかは定かでない。










「ねえ、水着って中に着てった方がいい?」
「別にどっちでもいいだろ。あ、もし中に着てくんならパンツ忘れんなよ」
「あ!」
「…てめえ、ノーパンで帰ってくるつもりか」
「Danger boy」
「ただの変質者だろ」


ホテルに戻った四人は朝食を済ませ、水着やら貴重品やらといった物を別口の鞄に詰めていた。せっかく前の日の内に用意していた逸希も、鞄の中身を散らかしてしまったので一緒になって支度している。

水着を先に着るか、現地で着替えるか迷った末、彼はグリーンの海パン片手にトイレへと駆け込んだ。早く海に入りたくて仕方ないらしい。



結局、四人がバスに乗り込んだのは集合時間ぎりぎりで。隣に座った佐久間に逸希は何度も怒鳴られてしまった。その後ろで当たるなと言っただろう、と鬼道が睨みを利かせていたのには…源田に名前を呼ばれるまで気づかない佐久間だった。



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Green-eyed monster
(やきもち)

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