I'm not amused



ハブのおもちゃを持った逸希達と合流したのち、四人は夕飯を食べるために適当な食堂に入った。そこでソーキそばを食べて、時間まではいろんな店を見て楽しんだ。逸希が始終観光客の女性に怯えていたのは、この際仕方ないだろう。

時間が来てホテルへ戻り、クラスごとに大浴場へ向かう。ゴーグルを外した鬼道、眼帯を外した佐久間、フェイスペイントを落とした源田を見た逸希が、


「俺だけ取れるものない!」


と騒いでクラスメイトに笑われたりした。それから部屋に戻った頃には9時を過ぎようとしていて。まだ寝るつもりはないにしろ、他の生徒のように友達の部屋に行ったり、という元気はなかった。


明日の予定はシュノーケリング。それが終わった後には郷土資料館、のような場所に行くことになっている。ウキウキと浮かれる逸希は既に水着の用意もばっちりだ。


「明日の天気はー?」
「晴れらしいぞ」
「やったね!」
「でも明後日は雨だとよ。どうせ水族館だから大して変わらないだろうけど」


逸希はうつ伏せに転がって、せっせと何かを書きながら間延びした声を上げる。佐久間はその腰を枕代わりにテレビを見ていて、源田も隣に座ってサッカー中継を見ていた。ちなみに鬼道は誰かに呼ばれて席を外している。

俺は雨も好きだよ、と腰の上の佐久間を振り返る。彼は誰もそんなこと聞いてねえ、と眉間に皺を寄せた。


「なあ、源田は今年どこが勝つと思う?…あ!今の絶対ファウルだろ!」
「そうだな…。去年は鹿島が勝ったからそろそろ別のチームが来るんじゃないか?」
「鹿島今何位だっけ」
「覚えてない」
「1位だよ!」
「なんでお前が知ってんだよ」
「アメリカの友達がやってたからちょっと覚えたー」


日本のチームはまだ勉強中、と言ってテレビから聞こえる応援歌に鼻歌を乗せる逸希。思えば、彼の口からアメリカにいた頃のことを聞くのはこれが初めてかもしれない。いつも何かと煩いくせに、意外と彼自身の話は聞かない。


「…まあいいや。で、お前はさっきから何書いてんだよ」
「日記!」
「普通、人に見られないように書くものじゃないのか…?」
「そうなの?」
「げ。これ見ても読めねえぞ」


逸希から下りて手元を覗く。使い込まれたノートに流れるように綴られる文字。源田も同じように覗き込んで目を見張った。


「…全部英語か」
「うん!向こうに行った時から英語の練習にって続けてるんだよ」
「源田、読めるか?」
「筆記体になると、流石に…」


差し出された日記帳を受け取って、一瞬躊躇ってからページを捲る。いくら読めないとはいえ、こうもあっさり渡されると逆にこちらが困ってしまう。


「なんか、三原以外の字も混ざってないか?」
「あ、それたぶんディランとマークだよ。丸っこいのがディランの字。こっちの右上がりのがマークの字」


ディラン、マーク。また知らない逸希が見えた。等間隔で並んだ罫線を無視して綴られた文字の横には、あまり馴染みのない顔文字が笑っている。雰囲気から言って、日記というよりは談笑しているようだった。


「そのディランとマークってのがサッカーやってたのか?」


源田から日記帳を受け取った佐久間がなんともなしに尋ねる。また最初のページに戻って、ペラペラと捲った。


「二人もそうだけど、もう一人…」
「あ」
「ん?何かあった?」
「これ、最後のページに日本語でなんか書いてある」
「え!?見せて!」


膝立ちになって必死に日記帳を覗き込む逸希。お前のなんだからと言って渡されて、覚束ない手つきでそれを受け取った。

転校してきてからそれなりに時間が経ったのに今まで気づいてなかったのか、という呆れが半分。書かれた文字が気に入らない、という苛立ちが半分。どうにもモヤモヤする。

佐久間が腕を組んで頭を捻る横で、源田は首を傾げた。よく分からないまま逸希と一緒になって文字を追い、自分でも気づかない内に顔をしかめる。





“絶対に会いに行く”


その言葉が、気に入らない。



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I'm not amused
(おもしろくない)

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(9/25)


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