どこか遠くのおだやかな島で


 偉大なる航路、凪の帯にほど近いとある春島に、こんな習わしがある。

“死者の体は大地へ、そして魂は海へと還す”

 その島では、人はみな海の子であると考えられている。海は島と島を隔てる壁ではなく、島と島を繋ぐ橋であり、愛すべき母であると。だから、最期は母の腕の中へと還されるのだ。

 死者を送るまでに、小難しい儀式や呪文はない。
 一晩、死者の胸に名を刻んだ石を抱かせる。そうすることで、死者の体から石へと魂が移る。残された遺体は土に埋め、石は小舟に乗せて海へ出す。魂の乗った舟は幾日、幾週、幾月と波に揺られ、やがて海底へと沈んでいく。
 そうして魂は、母なる海へ還るとされていた。

 海を愛する彼らに応えるかのように、その島の海は偉大なる航路とは思えぬほど、穏やかなものだった。母船で小舟を沖まで引く間も、海は道を遮らない。参列者は俯き、花に埋もれる小舟を時折見やりながら、囁くように送り歌をうたう。
 母なる海のもとへ、愛し子がかえることを知らせるように。


ゆぅらり ゆらゆら 海のゆりかご
いのち生まれる 生みのゆりかご

青いかいなに 愛し子 抱いて
ゆぅるり 歌って 子守唄




どこか遠くのおだやかな島で

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