四夜目明けて



「よーっす、昨日はどうだ…あだだだだだ!!痛い痛い痛い!なんでコブラツイスト…!!」
「よーっす、てめえのせいで最悪の夢見だったぞアホ」
「なんで俺のせいって断定!?」


朝、目が覚めて覚えていたのはねねの衣装を着た自分の姿だけだった。結局闘ったのかどうかはよく覚えておらず、なぜか“淋しい”“悲しい”といった感情が胸に残っていた。とりあえずあんな際どい格好を見られた腹いせに昭人にはコブラツイストをお見舞いしておく。こいつがおねね様がどうのと言わなければあんなおぞましいことには…。


「あ、簪」
「へ?」
「そうだ、最初に簪投げたんだ。たしか笑われて腹立って…あと雷が…」
「え、え、え、ちょっと待ってなんの話?一人言?それとも俺に話してるの?」
「夢の内容。忘れてたけど今思い出した」
「先輩!微妙に会話が繋がってないです!」


喚く昭人を無視して自分の席に行き、ノートを開く。思い出したことは些細なことでも片っ端から文字におこした。

かんざし、雷、笑う男。淋しい、悲しい。

見たもの、感じたこと。ひとつ、またひとつと蘇る微かな記憶をより集める。いつの間にか前の席に座った昭人は黙ってその文字を追っていた。


「たしか何かと勘違いされたんだ。なんだっけな…」
「誰かに似てたとか?」
「いや、人じゃない別の何か。所属とか役職とか形のないもんだよ、お前サッカー部だっけみたいな」
「分かった!所属の軍じゃね!?」
「、それだ!」


夢の中で見た光景が一気にフラッシュバックした。ねねの衣装にあしらわれた逆さ瓢箪。あれは豊臣秀吉の馬印。忍者の男はあれを見て俺を“豊臣軍に雇われた忍”と誤解した。


「瓢箪ってなんか間抜けだなと思ってたから夢の中でもきっちり反映されたのか…」
「そういや結局おねね様出せたの?それとも自分で闘った?」
「……」


俺は無言で昭人の首を絞めた。あの醜態を思い出させるな。

…とにかく、夢で闘えることは分かった。男が俺を忍者だと勘違いしていたことも思い出した。次はコピーする武将を間違えなければ大丈夫だろう。


「昭人、無双で一番まともな衣装のキャラってなんだ?できればリーチがあって武器も普通でそんなに重くなさそうな奴」
「やけに普通にこだわるな。んー…リーチで考えると槍と銃なんかどう?」
「じゃあ槍。銃は間合い詰められると動き辛い」
「ちょっと待ってー…えーっと…」


ペンの頭を顎で押し、昭人はノートに名前を書き並べ始めた。こいつは遅い、こいつは重い、こいつは変、とぶつくさ言いながらバツ印をつけていく。最終的に残った名前はひとつだけ。


「うん!やっぱ真田幸村が一番いいんじゃねえかな!」


この時の俺は昭人の意見に何も考えず、ただ頷いた。もう少しあの男のことを知っていたら、きっとこの選択はしなかったんだろう。



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後肢