四夜目
森の中にいた。ただし、昨日よりも拓けた場所。
暗い夜。手には二つの小刀。服装は、
「死にたい」
ない。これはない。体は自分のものなのに格好だけ“おねね様”。夢の中のせいなのか、納まっているのが非情に気持ち悪い。ナニがとは言わないが。
「くそ…まだ起きられねえか…」
試しに起きようとしたが無理だった。体は動かしやすいが、俺自身が起きられないと思っているらしい。
ぶっ飛ばす。誰を?あいつも、そこで笑ってる奴もだ。
「あんた…そりゃないよ!っはは、流石にキツいって!!」
「うるせえ黙れ」
昨日の忍者が木の上で笑っている。黙らせるために、苦無を模した簪を投げつける。男には当たらない。また背後か。
「はあ…笑えるのは格好だけだね。そろそろ洒落にならないよ、ホント」
「いい加減俺の夢に出てくるのをやめろ」
「夢?…そうだな、覚める分だけ夢の方がまだマシだ」
男の表情に影が差す。疲れた顔。なぜか、初めて人間らしい顔を見た気がした。
「その逆さ瓢箪…豊臣の手の者だったんだな。大方あの軍師殿が忍でも飼い始めたってとこ?」
「なんの話だ」
「あんたの話だよ、っと」
飛んできた手裏剣を弾き返す。男が長々と喋っていたせいか、体も夢の中に慣れてきている。
臨戦態勢に入った途端、視点が後ろへとすり抜けた。ゲームのように、自分の背中を見ている。これなら自分を動かしやすい。
「どうしてお前は現れる」
「夜になるとあんたの妙な気配がするから。昼間はいくら探しても痕跡一つ見つからないなんて、さぞや良い給料で雇ってもらってるんじゃない?」
「夢の中の人間が見つかるかよ」
「っつぁ、」
爆ぜるような電光。ゲームで使っていたのが雷属性の武器だったせいだろう。男は飛び退き、俺から距離を取った。
忌々しげな舌打ちの音が聞こえる。
「あんたも婆娑羅者か」
「なんだそれ」
「…っとに、とぼけてばっかで苛々するぜ」
なぜだろうか。心臓が冷えていく。心が遠い。分からない。もどかしいという感情だけが積もっていく。
男の攻撃を弾く。青白い電光に混じり、闇色の明かりが宙を飛び交う。悲しい。なぜだ。この感情はどこから来る。
一瞬、男の動きが不自然に止まった。一歩、二歩。大きく跳んで距離を空ける。
「…殺りづらいったらないよ」
「?」
言っている意味がよく分からない。
だってほら、
赤が散った。
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